NISTEP注目科学技術 - 2022_E151

概要
高温超伝導材料の研究開発では液体水素による超伝導体を冷却する技術の研究が進められている。液体ヘリウム大量入手は困難で、水素化社会では太陽光や風力発電の余剰電力による水素製造も計画されるため、水素を液化することで高密度エネルギー貯蔵、液体水素の冷熱を寒剤として利用、高温超伝導応用の社会実装加速は、持続可能社会に向けて重要である。高温超伝導技術の利用は多岐にわたり、医療用加速器やMRI、NMRへの適用や、核融合炉の超電導コイルの研究開発等が進められているが、併せて着目されているのは超伝導モータによる航空機の電動化である。航空機の電動化は、推進システムのターボファンエンジン部分に高出力密度の超伝導モータや発電機、電力変換器を必要とする一方、発電電力の送電系統最適化、フライトコントロール部分における電気機械式アクチュエータや液体水素燃料の使用検討が進められている。ジェットエンジンの水素燃料化では、軽量化とともに飛行時CO2排出ゼロのため、カーボンニュートラルを目指す社会で有力である。また、水素燃料の利用が図れれば超伝導技術と親和性があり、強力な推進力の得られる超伝導モータの適用も視野に入る。
キーワード
液体水素冷却超伝導コイル / 電動航空機用超伝導推進モータ / 水素による電力需給調整技術
ID 2022_E151
調査回 2022
注目/兆し 注目
所属機関 公的機関
専門分野 エネルギー
専門度
実現時期 5年以降10年未満
分析データ 推定科研費審査区分(中区分) 21 (電気電子工学)
分析データ クラスタ 38 (計算機・電気通信・通信デバイス・量子計算機)
研究段階
  液体水素冷却超伝導コイルについては、MgB2やReBCOなどの高温超伝導線材を用いた小型コイルを液体水素で直接、又は間接に冷却し、コイルの通電性能や冷却安定性を調べる基礎研究が行われている段階である。これらの実績を踏まえ、今後、例えば電力貯蔵用のシステムを構築し、実証試験が行われると思われる。
   電動航空機用超伝導推進モータについては、小型モータの試作や電磁的、熱的な解析研究が行われている段階であり、その成果を踏まえて実機レベルに近い推進モータの開発研究に移行するものと思われる。
 水素による電力需給調整技術においては、すでにガス状態の水素をタンクに貯蔵し、燃料電池と水電解を組合せた電力需給調整システムの実証研究や、そのシステムに水素吸蔵合金を取り入れたり、高速の電力需給調整に対応するための電気二重層キャパシタと組み合わせたシステムなどの実証研究が行われている。一方で、大量に水素を取り扱う将来を想定した液体水素を中心においた電力需給調整システム研究は、まだ概念検討や要素研究の段階であり、今後、液体水素の冷熱も有効利用した電力需給調整システムの実証研究が展開されると思われる。
インパクト
2022年調査にはこの項目はありません。
必要な要素
水素冷却による超伝導モータでは、極低温で液体水素を安定して維持冷却する技術開発と、その信頼性実証が不可欠である。水素ガスを長期保管する技術は確立されているものの、液体水素では温度制御の損失は気化につながり、またヘリウム冷却とは異なり水素は可燃性であるが故の細心の注意が必要である。これら要素技術は確立されているが、長期安定利用と制御という点での技術開発が必要である。
また、液体水素を利用する環境下に対する材料の低温脆性や水素透過による脆性による強度への影響などの基礎データの集積と、軽量化とのトレードオフとなる対策、対応が必要と考えられる。合わせて、航空機の電動化に伴い、軽量で大容量の電力貯蔵技術の開発も不可欠であり、この電力貯蔵も含めた航空機全体のエネルギーシステムの最適化検討の取り組みも必要である。
 加えて、水素を取り扱うことが危険であるというイメージを払しょくするための、社会受容性の構築を図る取り組みや、水素を安全に取り扱うための技術基準の整備も必要と思われる。