NISTEP注目科学技術 - 2023_E95

概要
電離圏変動計測技術による地震先行現象検証の立証と短期地震予知の実現:

 2017年の大規模地震対策特別措置法の見直しまで、我が国で予知可能な地震は東海地震のみとされており、気象庁が24時間体制で歪計監視を行ってきた。その根拠は1944年東南海地震直前の隆起とされているが、仮にこの地震が100年毎に発生すると仮定すると、100回のイベントデータを取得するには1万年もの年月が必要となる。
 一方、全球でマグニチュード7以上の大地震は年平均16回、6以上は約130回発生しているため、衛星を利用した予知研究は地上観測に比べ圧倒的に短期間でイベントスタディが可能となり、これがロシア、フランス、中国等の諸外国で宇宙からの地震予知研究が進展している大きな理由となっている。
 電磁気的手法による地震予知研究は1980年代にギリシャで開始されたVAN法が有名だが、同時期にロシアにおいても地震直前電磁放射が報告されるようになり、1990年代には旧ソ連諸国で衛星観測が提案されようになった。
 世界最大の地球科学関係の学術組織である国際測地学・地球物理学連合(IUGG)は、初代委員長を上田誠也博士として地震・火山噴火に伴う国際ワーキンググループ(Electromagnetic Studies of Earthquakes and Volcanoes: EMSEV)を設置し、2年毎に国際ワークショップを開催している。
 2004年6月29日、フランスはロシアのDneprロケットによりバイコヌール宇宙基地から地震電磁気観測衛星:DEMETERを打上げた。2004年から2010年まで観測運用の結果として、地震前4時間以内にVLF帯の夜間電波強度が低下することを報告した。次に行うべき観測は、本現象の独立した検証と、地方時依存性の調査であろう。
 宇宙開発の進展著しい中国は、2003年から国家863計画(中国ハイテク研究)の一環として、中国地震局が電磁観測衛星の研究を開始し、2009年には国防科工局と共同で首都圈地震電離層試験網を設置し、国家航天局とイタリア宇宙機関との協力により、世界最古の地震計を発明した張衡の名前を冠した地震電磁観測衛星初号機:Zhangheng-1を、2018年2月2日に酒泉宇宙センターから打上げ、2023年以降5~6機追加し衛星群を構築する予定である。
キーワード
地震予知 / 電離圏 / TEC(total electron content) / DEMETER / CSES
ID 2023_E95
調査回 2023
注目/兆し 注目
所属機関 公的機関
専門分野 宇宙・海洋・科学基盤
専門度
実現時期 5年以降10年未満
分析データ 推定科研費審査区分(中区分) 17 (地球惑星科学)
分析データ クラスタ 62 (地震・プレート・地層・マントル)
研究段階
 2010年、宇宙理学委員会にELMOSを小型衛星群計画として再提案した。この提案では、気象予測精度の改善に実利用されているGPS掩蔽受信器と我が国の電離圏計測プローブを搭載し、①既に気象予測精度の改善に利用されているGNSS掩蔽データの提供、②科学研究:大気圏から電離圏に渡る時空間データの取得による地震先行現象を含む電離圏変動現象の解明、③工学利用:宇宙環境・宇宙天気・高精度測位への利用及び宇宙状況認識、をミッションの柱とし、小型衛星による地球観測、宇宙科学、ロケット、相乗り衛星の「よい循環」を作り出すことが期待されている。地震前大気圏・電離圏変動メカニズムの解明には多分野に渡る学際的研究が必要不可欠であり、そのためには「地圏-大気圏-電離圏の時空間変動を包括的に観測する衛星群による観測が論理的帰結となる。
 2013年に筆者らが日本航空宇宙学会を通じて日本学術会議に提案した「小型衛星群による大気圏-電離圏の時空間的観測」及び「地上-衛星観測による21世紀の地震フロンティア研究」は、提言「第22期学術の大型研究計画に関するマスタープラン(2014)」に公表された。
 我々の研究グループは、DEMETERと全球落雷観測網のデータを用いて、地震4時間前の電波強度低下は、電離圏D層の電子密度増加にあることをつきとめた。
 現在、日本大学の山崎政彦助教を中心として3U超小型衛星Prelude (Precursory electric field observation cubesat demonstrator) の開発が進行中である。130kgの衛星DEMETERが観測したことを、わずか3kgのCubeSatで実証することは極めてチャレンジングであり、実現すればELMOS小型衛星群を従来より一ケタ低いコストで実現できる可能性を秘めている。
 2023年、革新的衛星技術実証4号機に搭載する実証テーマに、本追超小型衛星Preludeの搭載が採択された。
インパクト
地球科学におけるプレートテクトニクスの誕生に匹敵する大発見と地震予知という最後の聖杯の獲得
地震火山津波国である日本が成しうる最大級の安全保障と国際貢献
必要な要素
 短期予知の目標に一歩でも近づくべく、地震予知学・技術の確立に向けて、地上―衛星連携観測による新世紀の地震フロンティア研究を宇宙基本計画工程表に取り入れることを強く提唱する。特に我が国の宇宙政策が安全保障及び産業振興にシフトし、地球科学・宇宙科学の将来計画の空白が続く今、小型・超小型衛星による地球科学・宇宙科学ミッションは、基礎研究・基盤研究を維持する唯一の現実的方策である。
 基礎研究・基盤研究は科学・技術の基盤であり、我が国の国力の源であり、これなくしては、科学・技術の発展も産業振興はもちろんイノベーションはおろか国防すらもあり得ない。
 短期地震予知の達成及びその技術移転は、今後爆発的な人口増加・経済発展の期待されるアジア・中東・中南米諸地域における安心・安全のためにも、我が国がなし得る最大級の国際貢献となるであろう。