NISTEP注目科学技術 - 2023_E84

概要
<化学合成を伴う、生命機能の解明>

これまで、情報伝達やエピゲノム解析などで、蛋白分子上に化学修飾が起きることが知られており、研究が進んできた。しかしながら、1分子上に複数の化学修飾が起きる場合、抗体の使用が限定される場合は、機能解析は進んでいない。そこを、乗り越えるのが、有機合成を伴う研究である。

現時点で、特定の研究室で、多種の化学修飾を導入する系ができている。さらに、生体内で分解しにくい修飾に置き換えることもでき、生体内での反応を、官能基の脱離を考えずに、調べることができる。

今後、分子レベルの研究、細胞レベルの研究を推進することで、タンパク質機能制御において新規機構を明らかにできる
キーワード
分子 / 人工蛋白質 / 合成生物学
ID 2023_E84
調査回 2023
注目/兆し 注目
所属機関 大学
専門分野 ライフサイエンス
専門度
実現時期 5年未満
分析データ 推定科研費審査区分(中区分) 43 (分子レベルから細胞レベルの生物学)
分析データ クラスタ 5 (分子生物学/薬理学)
研究段階
現在、多種の修飾アミノ酸を含ませた 低分子蛋白質を合成できている

現在、合成修飾ペプチドと、組み換え体とを連結させて、より大きな分子を作成できるようにしている。特に、ドメイン構造を取る領域は、組み換え体で用意するといった、より効率化に向けた段階に入っている。

例えば、化学合成を伴う生命科学研究は(特に、遺伝子発現に関与するエピジェネティクス研究において)、特定の修飾を持たせたヒストンによる再構成ヌクレオソームの安定性など、物理化学的性質の面から、精密に遺伝子発現を議論しうる前段階に入っている。

インパクト
例えば、糖尿病でも、遺伝子発現が変動するが、核内蛋白質の糖鎖修飾による影響については、あまり理解が進んでいない。そこで、糖化される核内蛋白質の同定、その合成、それを用いた基礎研究を介して、糖の影響を分子レベルで、これまでよりさらに詳しく知ることができる。この情報は、近い将来、診断や治療の基盤となりうる。

糖に限らず、多くの機能のわかっていない化学修飾の機能を明らかにすることで、発症を遅らすことなどができ、社会保険料問題の解決に貢献できる可能性が高い。

なお、化学合成は、多くの種類、さらには非常に多くの組み合わせになるので、研究室で行うことはできない。そのため、特殊な技術を持った企業、つまり、それらを世界に供与する企業などの産生も可能である。

現在、ある種の化学修飾を持たせたタンパク質の抗体は、作成しづらいと聞いているので、近い将来、現行の「抗体を用いた研究」に限界が生じる。そのため、抗体を用いない研究を進展させ、新規な解析法を用意(提案)する。
必要な要素
諸外国(中国、イスラエルなども含む)の研究の進展速度から考えると、本国での研究は急いだほうがよいと思われます。

問題点は、当然、研究予算であるが、それだけではなく、他国から見て、生化学系などの研究者の減少が問題となっている。そのために、よい人材を、将来のために育成すること、同時に、育成する環境を作ることが急がれる。
というのは、生化学や合成は、職人的な要素が含まれるので、キットなどを使って、単純に研究費で、乗り切れるものではないからである。