NISTEP注目科学技術 - 2022_E1

概要
材料科学において材料構造形成を記述する数理モデルを構築することは非常に困難である。特に階層構造を持つ材料では、よく知られた方程式だけでは現象を記述することはできないので、問題に応じて過去の研究の知見からモデルを構築するという作業が行われてきた。この作業には多くの時間が費やされる。そこで、実験データや目的となる構造データなどから数理モデルを推定する手法が期待されている。これは、材料を記述する支配方程式をデータから推定し、未知の材料の予測に使用するというものである。内挿的な従来のマテリアルズインフォマティクスに対して、いったんモデルを構築すればパラメーターの値を変えるなどすることで未知の材料の探索にも利用できると期待でき外挿的な予測が可能になるのではないかと考えられている。
キーワード
機械学習 / モデル推定 / ベイズ推定 / 支配方程式推定 / governing equation discovery / model discovery
ID 2022_E1
調査回 2022
注目/兆し 注目
所属機関 大学
専門分野 ナノテクノロジー・材料
専門度
実現時期 5年以降10年未満
分析データ 推定科研費審査区分(中区分) 26 (材料工学)
分析データ クラスタ 46 (データサイエンス/機械学習・AI)
研究段階
現在は、比較的単純な方程式、例えば拡散方程式やバーガース方程式などで、モデルから生成したデータを使用して元のモデルを当てるという研究がいくつか行われ成功を収めている。しかし、材料科学で利用されるような複雑な方程式に対してこれらの手法がうまくいくかどうかは未解明である。さらに、現実の問題では、データを完全に記述するような正解となるモデルは存在しない。どんなモデルでもある程度の不完全さを持っているので、正解がある問題だけでなく、正解がない問題に対してどのようにして「よい」数理モデルを推定できるのかということについて今後研究が進んでいくのだと考えられる。
インパクト
2022年調査にはこの項目はありません。
必要な要素
基礎的な技術や理論の開発がまず必要である。その次の段階としてソフトウェアなどの汎用化によって、企業などでも広く使えるような環境を整備する必要がある。例えば、現在有限要素の数値計算ソフトは商用・非商用のものがいくつか知られている。商用のものは、空力の計算や流体中の物体の運動など様々な開発の現場で仮想実験の場として用いられている。この場合は支配方程式は既知のものを利用して、その方程式の中のパラメーターを現実の材料の値を用いて計算する。問題に応じて支配方程式は異なるので、流体のこの問題はこのパッケージ、弾性体のこの問題の場合は別のパッケージというように、パッケージを細分化させることで個別の用途に対応させている。当然支配方程式がまだ未知である問題に対しては、不完全さを許容して既知の方程式で代用するなどするしか方法がなかった。支配方程式の推定が自動化できるようになれば、データや目標値から支配方程式を推定し、その方程式を解析して結果を得るという一連の作業を一つのパッケージで行えるようになり開発が加速することが期待できる。