NISTEP注目科学技術 - 2023_W113
概要
近年、情報処理の省エネルギー化の手法として、量子コンピュータとはまた違う概念である新たな物理的なコンピューティング、特に熱力学的なコンピューティング(thermodynamic computing, TC)と呼ばれる技術のビジョンについて、注目を持っている。この熱力学的なコンピューティングは、量子コンピュータや通常のコンピュータとは異なるスケールのコンピューティングデバイスであり、具体的には生体細胞が情報処理を行うのと同じ空間・時間・エネルギースケールで生物が自然に行っているような形で情報処理を行うコンピュータの手法である。
特に近年我々の分野では熱力学的なトレードオフ関係と呼ばれる関係式の理解が進んでおり、この熱力学的なトレードオフ関係は生体情報処理の基礎としても注目されてきている。このトレードオフ関係とは早く正確に状態を変化させて情報処理を行うほどエネルギー散逸は必要になることを物理的な原理から普遍的な法則化したものである。このようなエネルギー散逸とのトレードオフ関係は実効的に現在の消費電力が高まっているコンピュータや、もしくは発電デバイスの効率向上などの限界や制約を与えるものであり、いかにエネルギー散逸を減らして消費電力を減らすか、もしくは発電を効率的に行うか、という観点で非常に注目されるべき基礎研究であると考えている。
そして、そのような熱力学的なトレードオフ関係の基礎理論に基づいた熱力学的なコンピューティングの開発がもし実現した場合は、社会に大きな影響を与えることが期待される。特に現在日々計算資源が必要になり、消費電力が増大し続けている現状のコンピュータ利用が持続可能でないため、今後持続可能なエネルギー消費で計算資源を賄う未来につながりうる技術だと考えられる。
特に近年我々の分野では熱力学的なトレードオフ関係と呼ばれる関係式の理解が進んでおり、この熱力学的なトレードオフ関係は生体情報処理の基礎としても注目されてきている。このトレードオフ関係とは早く正確に状態を変化させて情報処理を行うほどエネルギー散逸は必要になることを物理的な原理から普遍的な法則化したものである。このようなエネルギー散逸とのトレードオフ関係は実効的に現在の消費電力が高まっているコンピュータや、もしくは発電デバイスの効率向上などの限界や制約を与えるものであり、いかにエネルギー散逸を減らして消費電力を減らすか、もしくは発電を効率的に行うか、という観点で非常に注目されるべき基礎研究であると考えている。
そして、そのような熱力学的なトレードオフ関係の基礎理論に基づいた熱力学的なコンピューティングの開発がもし実現した場合は、社会に大きな影響を与えることが期待される。特に現在日々計算資源が必要になり、消費電力が増大し続けている現状のコンピュータ利用が持続可能でないため、今後持続可能なエネルギー消費で計算資源を賄う未来につながりうる技術だと考えられる。
キーワード
熱力学的なコンピューティング / 熱力学的なトレードオフ関係 / 省エネルギーコンピューティング / 生体情報処理 / 低消費電力
ID | 2023_W113 |
---|---|
調査回 | 2023 |
注目/兆し | 兆し |
所属機関 | 大学 |
専門分野 | エネルギー |
専門度 | 高 |
実現時期 | - |
分析データ 推定科研費審査区分(中区分) | 60 (情報科学、情報工学) |
分析データ クラスタ | 46 (データサイエンス/機械学習・AI) |
研究段階
この研究段階としては、2019年にこのテーマでワークショップが開催され、そのレポートが(https://arxiv.org/abs/1911.01968)にてまとめられたという現状に留まっている。またこのレポートに関連して、マイクロソフトAzureに関わっているMark D. Hillが2021年にA Vision to Compute like Nature: Thermodynamicallyと呼ばれるビジョンを提唱した段階である。
まだ原理も明らかになっているか不明な上、社会実装はされておらず、今後のコンピューティングアーキテクチャの開発の新たなビジョンの提案という段階に止まっている。ただし、コンピュータの開発において消費電力の問題は日に日に増大しているため、今後コンピューティングアーキテクチャの企業が研究を精力的に進めていくことは容易に想像が可能である。
まだ原理も明らかになっているか不明な上、社会実装はされておらず、今後のコンピューティングアーキテクチャの開発の新たなビジョンの提案という段階に止まっている。ただし、コンピュータの開発において消費電力の問題は日に日に増大しているため、今後コンピューティングアーキテクチャの企業が研究を精力的に進めていくことは容易に想像が可能である。
インパクト
実現した場合には、現状の機械学習などで大量の計算資源を活用することで、電力を消費している現状を改善する効果があることが考えられる。これは、環境エネルギーの本質的な貢献になるほか、コンピュータデバイスの新基軸になりうると考えられる。また、生体システムの省エネルギー性を活用するということからも、人工細胞などの人工的に生体を模したシステムを作るような生物研究への波及効果が大きいと考えている。
必要な要素
この技術の実現は、要素技術の本質的な進展が大きな課題になりうると考えている。たとえば、生物の情報処理の空間スケールの技術であるメゾスコピック及びナノ制御技術の発展、人工細胞などの生体情報処理を人工的に活用する技術の創出、コンピューティングデバイスの新基軸の提案や、情報処理デバイス開発、など様々な要素が絡み合うため、現実的なレベルで実現可能な状況にはない。様々な分野の本質的な要素技術の進展が、実現には確実に必要になってくるだろう。
ただし、社会的な要素としては、コンピューティングデバイスの消費電力の高まりが日々増えている現状からも、実現の期待が日々高まってくることが容易に想像できる。よって、コンピューティングデバイスの消費電力の問題を解決しようとする動きはこれからどんどん盛んになってくるだろう。
ただし、社会的な要素としては、コンピューティングデバイスの消費電力の高まりが日々増えている現状からも、実現の期待が日々高まってくることが容易に想像できる。よって、コンピューティングデバイスの消費電力の問題を解決しようとする動きはこれからどんどん盛んになってくるだろう。