NISTEP注目科学技術 - 2023_W101
概要
我が国は他国に先駆けて高齢化社会と人口減少といった問題に直面している国であることは明らかな事実である。人口増加に向けた様々な試み、政策は検討されているものの、前述した2点を前提とした上での対策は必須と考える。高齢化社会において、国力の維持・増加に必要なことは、ありきたりではあるが、健康寿命の増加を達成可能とする社会構築であり、これを成し遂げるために、革新的な科学技術の導入は必須と考える。特に、健康寿命を引き伸ばすためのフレイル予防薬、疾患バイオマーカーの創生などの予防医学の発展はライフサイエンスの面で極めて重要と考える。また、肉体的な低下を補助するための、転倒補助や衝撃耐性を兼ね備えた衣服などのマテリアル分野の発展も必要と考える。他国に先駆けて進行する高齢化問題は、対応策となる科学技術とその社会実装という点では、早急に社会実装せざる得ないため、他国よりもリードでき有利な点もあると考える。
キーワード
健康科学・健康寿命 / ビックデータ / マテリアルズ / タンパク質工学
ID | 2023_W101 |
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調査回 | 2023 |
注目/兆し | 兆し |
所属機関 | 大学 |
専門分野 | ライフサイエンス |
専門度 | 低 |
実現時期 | - |
分析データ 推定科研費審査区分(中区分) | 59 (スポーツ科学、体育、健康科学) |
分析データ クラスタ | 29 (社会心理学・行動経済学) |
研究段階
加齢や老年学の分野で健康科学を支えるフレイル予防については、その概念や重要性こそ伝わっているものの、成功したプロジェクトやフレイル予防薬の創出は今の所進んでいないと考えられる。かつては、加齢や老化は、癌や他の疾病の科学よりも解決すべき優先度が低く、特定の研究分野として区別されている印象があったが、死亡の最大の原因が加齢や老化であることを考えれば、より重点化されるべきと考える。この分野の難しい点は、癌などと比べると特定の細胞だけでなく、生体全体が関連した現象であることため、予防すべきターゲットが明確にしづらい点である。こうした予防薬の創生に、これまでの疾患治療薬に対する長期の臨床試験を導入することは、あまりに時間とコストが必要であるため、社会実装する上での大きなハードルとなる。一方で、加齢に伴う肉体の低下を補助するマテリアルについては専門性が異なるため、現在の状況は把握していないが、臨床試験等が必要ないことを考えると、社会実装までの期間は短縮できるため、より早期の対策となることが期待できる。
インパクト
健康寿命の延長は、単に患者の個人的な問題だけでない。最も重要なことは、患者の周囲にいる家族やその他の人々の生活や、社会的な活動を制限しないという点であり、それによる経済効果の増加が期待できる点である。一旦、家族の介護が始まってしまえば、多くの人々にとって、社会活動を制限せざる得ない状況となることは、現在も広く知られていることである。我が国にとって何より重要なことは、人々が仕事や生活といった社会的活動を通じて、社会に還元できる時間を長く取れるようにすることであり、人口が減少していくこの先の状況では、なおのことこの単純な仕組みをより円滑にすることが求められている。また、こうした様々な試みから生まれる科学技術や社会実装の経験は、世界に先駆けたものであることから、この先多くの国でも来る高齢化社会の構築に向けて、正解をリードできる強みになることが期待できると考える。
必要な要素
近年の企業の研究状況を鑑みると、加齢や老化といった成功確度の低い研究に対する開発が、企業主導で進むことは考えづらい。要素技術やシーズ探索には、アカデミア主導であることが望ましく、そのためには老化/加齢に関する概念を変え、一般科学、疾患科学の枠組みと融合した新たな学問体系の再構築が必要と考える。(現時点では、特定の老化研究者しか参加できない枠組みになっている)