NISTEP注目科学技術 - 2023_W99

概要
ハイブリット化合物をエレクトロニクス等の分野で活用するデバイス応用技術が確立できれば学術・経済・社会へ大きな変化をもたらし得る。
 素材や材料は現代社会を支える重要な研究対象であり、その歴史も長い。近年の科学技術はは、工業的には20世紀以降に研究されてきた様々な素材や材料の活用が依然として主流ではあるが、21世紀以降に急速に発展したナノテクノロジーの影響を受けた新たな潮流として、より微細な組織を制御したところから引き出される量子材料など活用研究が注目され、精力的な研究開発競争が展開されている。この潮流は原理的に当然の展開なので、方向性としては疑う余地はないが、現時点では原子サイズで制御した材料の物性研究は学術研究の域を脱しておらず、応用・実用化研究を視野にいれて研究されているのはナノサイズの材料である。そんな中、ハイブリット化合物は、原子サイズでの物性研究と応用・実用化研究を検討できる簡便な合成技術が両立している希少な研究対象である。近年の先端技術なら、ハイブリット化合物の原子レベルの物性を計測することは不可能ではなく、ハイブリット化合物を応用・実用化研究視点で材料化する研究も不可能ではない。こうしたことから、当該分野では、今後10年の間に優れた研究成果が創出され、新たな産業へと発展する可能性が高いと思われる。
キーワード
金属有機構造体/多孔性配位高分子 / 無機-有機ハイブリット化合物 / 低次元物性 / 量子物性 / 化学プロセス
ID 2023_W99
調査回 2023
注目/兆し 兆し
所属機関 公的機関
専門分野 ナノテクノロジー・材料
専門度
実現時期 -
分析データ 推定科研費審査区分(中区分) 26 (材料工学)
分析データ クラスタ 54 (理化学/分子化学)
研究段階
近年のハイブリット化合物研究の源流は、金属有機構造体や多孔性配位高分子の発見あたりに端を発しており、先端的なデバイス研究に注目する物理系の研究者よりはむしろ、化学系の研究者が中心になって発展している。そのため、触媒やガス分離などへの応用研究が主流であり、デバイス応用を研究している研究者はまだ少ない。また、該当する材料は多種多様であり、どんな化合物でも自由自在に合成できる研究者が存在するわけでもない。つまり、ハイブリット化合物のデバイス応用を研究しようと考えている研究者は少数であり、その研究者が自身にとって良好なハイブリット化合物を合成または入手できる確率も低い。その意味でも、ハイブリット化合物のデバイスとしての応用は、現在、実証研究が着手された段階にあると言える。
インパクト
ナノレベルで形状を制御したデバイスの研究は、ナノチューブ、ワイヤー、ドットなどを研究対象として様々な成果が創出されており、有望な成果のいくつかは、実用化に向けた研究開発も行われている。ハイブリット化合物のデバイス応用は、その次の段階の研究に位置づけられる。この研究が本格化し、実現できれば、現在議論されているところの数桁超えるところでその性能を期待できるようになる。小型・軽量化、高性能化、省資源化など、さまざまな視点で素材・材料を活用できるようになると思われる。特に日本は、これらの研究の要素技術を得意とする研究者が多いので、国の新たな産業として育成できれば、その波及効果はかなり大きくなると予想される。
必要な要素
研究そのものは、何かを仕掛ける必要はないが、大型予算による後押しは必要である。ただし、基礎基盤研究の域を脱していない領域であり、セレンディピティこそが大きな発展に対して重要な要素となる段階でもあるので、近年主流となっている、数値目標の設定や、マイルストーンを要する計画設定、対費用効果の検証などを細かく定めた枠組みに研究者を押し込めようとすると逆効果になる。長期的視点で大型予算を支援できる体制を整えることができれば飛躍的な発展も夢ではない。