NISTEP注目科学技術 - 2023_W93

概要
脳神経細胞レベルのシミュレーション技術とコンピュータ科学の融合によるコンピューティングの新展開や計算新原理の創造への兆しがある。近年、脳科学の発展により、脳神経細胞(ニューロン)の活動は、個々のレベルから、ネットワークを形成し脳の機能を構成する領域に至るまで解明が進んでいる。脳のニューロンの特性やネットワーク構造は、深層学習技術の着想の原点になったことも知られているように、人工知能技術の進展にも間接的に大きな影響を与えてきた。現在は、脳科学や計算機技術の進展により、これまでは計算量の観点で実現できなかったシナプスの化学反応をも再現した生物物理学的に詳細なモデルをニューロン単体から小規模ネットワークを対象としたミクロレベルの規模では直接的に数値的に解くことが可能になりつつあるといわれている。他方、コンピュータ科学の分野では、特定の情報処理に特化した専用アクセラレータ・専用チップを開発することにより、汎用的なCPUで処理するよりも格段に消費電力の面で効率が良いという報告がされている。そこで、規模の面でもミクロレベルを超えて数千から数万のニューロンのネットワークからなる機能レベルを視野に入れたシミュレーションに関する専用アクセラレータを開発しすることにより、脳の数値シミュレーションの規模や計算スピード、計算コストをケタ違いに進歩させる。
キーワード
神経医学 / 人工知能 / 強化学習
ID 2023_W93
調査回 2023
注目/兆し 兆し
所属機関 大学
専門分野 情報通信
専門度
実現時期 -
分析データ 推定科研費審査区分(中区分) 60 (情報科学、情報工学)
分析データ クラスタ 46 (データサイエンス/機械学習・AI)
研究段階
原理・現象が科学的に明らかになった段階であり、国内外の一部の研究室で開発している段階といえる。
インパクト
既存のトランジスタによるデジタル方式のコンピュータと比べて、ニューロンの動作に基づくコンピュータは電力効率の良い新計算原理として注目されている。人間の脳が20W程度で複雑な意思決定や判断の処理に対応できていることを鑑みると、様々なコンピュータの応用において消費電力を2桁程度改善するインパクトが期待できる。
必要な要素
脳神経科学分野の研究者と、コンピュータ科学分野の研究者が連携して研究を進めることができるような制度や研究機関が必要と思われる。現在のところ、分野の壁があり、組織や予算的な支援の制度に大きな違いがあり、分野を融合しようという動きはあまり感じられない。融合を支援する制度等があると、対話が促進すると思われる。