NISTEP注目科学技術 - 2023_W82

概要
細胞の構造は古くから研究されてきており、中学や高校の教科書にも概要が記載されている。しかし、近年のイメージング技術の進歩により、教科書に記載されている細胞内構造体(オルガネラ)の形態が実際には異なることが次々と明らかになってきた。また、細胞内構造体の機能についても、がん免疫とミトコンドリア活性が深く関わることや、老化とオートファジーの関連などが報告されていることから、がん・免疫・老化など重要な医学領域の課題の基礎には細胞内構造体の機能異常がある可能性が示唆される。
現在、細胞内構造体を新たに解析し直すことにより、オルガネラコンタクト(膜接触部位)やメンブレンレスオルガネラ(液-液相分離)などの新しい概念が確立されつつある。これらの研究を推進することと、個体レベルでの生理機能やがん・老化・免疫などとの関連の研究を促進することにより、多くの疾患の予防法の開発へとつながる可能性が期待される。
キーワード
細胞内構造体 / オルガネラ / イメージング / ライブセル / タンパク質相互作用
ID 2023_W82
調査回 2023
注目/兆し 兆し
所属機関 大学
専門分野 ライフサイエンス
専門度
実現時期 -
分析データ 推定科研費審査区分(中区分) 43 (分子レベルから細胞レベルの生物学)
分析データ クラスタ 42 (細胞生物学)
研究段階
培養細胞を用いた基礎的な知見が蓄積しつつある段階である。基礎的な研究に加えて、その生理的な役割などにも目を向けるような研究も少しずつ出始めているように思える。これらの研究の芽をうまく育てることが重要だと思われる。
インパクト
細胞内構造体の研究自体は、典型的な基礎研究であるが、まず中学や高校の教科書を大きく塗り替える基礎データを提供することになると思われる。 その上で、細胞内構造体の研究を、培養細胞のみにとどめず、個体レベルの解析や老化・がん・免疫などの生命現象との関連についても研究を進めることにより、多くの疾患の根底にある共通原理を明らかにすることができると思われる。
例えば、ミトコンドリアの活性化は、がん免疫の促進に加えて、老化による身体機能の低下も改善するという報告もあり、多くの生命現象や疾患の理解、予防、治療につながることが期待される。
必要な要素
細胞内構造体は古くから研究されていることもあり、研究費の獲得が難しい分野でもある。しかし、地道な研究の先には、流行りの分野である老化・がん・免疫などの共通基盤の理解があることから、成果(応用)が見えにくい基礎研究を強く推進することが必要である。
また、細胞内構造体の研究には、イメージング技術が必須であるが、精度の高い顕微鏡(ノーベル賞の対象にもなった超解像度顕微鏡など)は非常に高額であり、1億円を超えるものもある。このため、大学などが共通機器として購入し、さらに機器を管理できる技術員を常駐させるなど、研究環境の整備が重要となるであろう。