NISTEP注目科学技術 - 2023_W60
概要
学術変革領域「散乱・揺らぎ場の包括的理解と透視の科学(散乱透視学)」では、濁った系(散乱系)から光を用いて構造・機能情報を抽出する技術を開発し応用を進めている。散乱透視学は、主として顕微鏡で観察できる散乱の程度が弱いものを対象としているが、人体など生体は強散乱体であるため光で観察できる深度には限界があり、また表層組織であっても吸収と散乱を分けて計測することは困難である。しかし、近赤外光がブレークスルーを起こし、1980年代に脳内ヘモグロビン(血流や酸素化状態を反映)などを計測する近赤外光スペクトロスコピ(NIRS: 海外では、農作物にも用いられているNIRSと区別するために拡散光スペクトロスコピとも呼ばれている)や、さらに拡散光トモグラフィ(DOT)の技術開発が行われた。前者は、当初組織酸素モニタとして注目され、さらに現在は主として脳機能イメージング研究に用いられているが、定量計測が困難で、皮膚血流などの影響を受けずに選択的に脳組織を計測することができないため、臨床応用は進まなかった。後者のトモグラフィ技術は、画像再構成に高度な数理・計算科学技術を必要とするため、当時は実用化には至らなかった。しかし、近年、数理科学、さらにスーパーコンピューターやAIなどトモグラフィを可能にする技術が急速に進歩し、諸外国では再び開発が進められている。
DOTは乳がんの診断装置として期待されてきたが、がん以外にも多くの応用が可能で、例えば、外傷で生じる硬膜下・硬膜外出血の診断が可能である。高齢社会の我が国では、高齢者の転倒は日常的に生じ、また、乳幼児の転倒による頭部外傷もしばしば遭遇する。無症状であってもクリニックを受診することが多いが、CTやMRIを保有していない場合は何か症状が出たら大きい病院を受診するように言うことしかできない。このような場合、頭部DOTはスクリーニング法として極めて有望である。
しかし、新にDOT開発を提案しても、過去の技術とみなされて一向に研究の道は拓かれない。我が国は、NIRSにおいてかつては世界をリードしていたが、現在は計測装置の国内製造は減少し、海外の装置を購入するなど、完全に後進国と化してしまった。このような状況を打破するためにも、DOT開発は必要である。
DOTは乳がんの診断装置として期待されてきたが、がん以外にも多くの応用が可能で、例えば、外傷で生じる硬膜下・硬膜外出血の診断が可能である。高齢社会の我が国では、高齢者の転倒は日常的に生じ、また、乳幼児の転倒による頭部外傷もしばしば遭遇する。無症状であってもクリニックを受診することが多いが、CTやMRIを保有していない場合は何か症状が出たら大きい病院を受診するように言うことしかできない。このような場合、頭部DOTはスクリーニング法として極めて有望である。
しかし、新にDOT開発を提案しても、過去の技術とみなされて一向に研究の道は拓かれない。我が国は、NIRSにおいてかつては世界をリードしていたが、現在は計測装置の国内製造は減少し、海外の装置を購入するなど、完全に後進国と化してしまった。このような状況を打破するためにも、DOT開発は必要である。
キーワード
拡散光トモグラフィ / 近赤外光 / スクリーニング法 / 血流酸素代謝 / 生体ひかりイメージング
ID | 2023_W60 |
---|---|
調査回 | 2023 |
注目/兆し | 兆し |
所属機関 | 大学 |
専門分野 | ライフサイエンス |
専門度 | 高 |
実現時期 | - |
分析データ 推定科研費審査区分(中区分) | 90 (人間医工学) |
分析データ クラスタ | 43 (医用画像工学) |
研究段階
NIRS・DOTの開発とその応用研究に長年携わり、医学系・理工系・人文系など多岐にわたる領域と様々な学際的研究を行ってきた。1993年にNIRSの神経機能イメージング法としての用途を世界に先駆けて提案し、現在NIRSは神経機能イメージング研究において主要な計測モダリティになっている。通商産業省の「光断層イメージングシステム開発プロジェクト」では動物・ヒトでの計測を担当し、ここで開発された64チャンネル時間領域計測システムによる脳機能マッピング画像は、Cognitive Brain Researchの表紙に採用された。その後、新生児脳、前腕骨格筋、甲状腺などを計測対象にDOTの技術開発を進め、さらにマウスを用いた蛍光トモグラフィ画像再構成にも成功した。2012年12月から2017年3月までAMEDの「ヒト生体イメージングを目指した革新的バイオフォトニクス技術の構築」で研究代表を務め、輻射輸送方程式(RTE)に基づく画像再構成アルゴリズムの開発を行い(通常は計算負荷の少ない光拡散方程式(PDE)を用いるが、画像精度が劣る)、甲状腺がん検出の可能性を示すとともに、高速化の一つの方法としてPDE-RTE時空間ハイブリッドモデルを提案した。また、8チャンネル時間領域計測システムを用いてヒト頸部を計測し、世界初となる甲状腺DOTの画像再構成に成功した。さらに、筑波大学の計算科学センター(宇宙物理学)と共同で、ス-パ-コンピュータとAIを用いて、RTEに基づく画像再構成の実用化を目指している。
インパクト
現在開発しているアルゴリズムはスーパーコンピュータを保有する限られた施設でのみ実施可能であるため、将来的にはセンター化して全国の医療機関・研究機関から計測データを受け取り、画像再構成を行って各機関に結果を返す“生体ひかりイメージングセンター”を構築を目指している。これにより、DOTは医用画像スクリーニング法として社会に大きく貢献できると考える。
必要な要素
スーパーコンピュータではなく、通常のワークステーションでも計算を可能にする計算コードの開発も、汎用性を高めるために必要
データを送受信するネット環境の充実
ウェアラブル時間領域計測システムの開発
データを送受信するネット環境の充実
ウェアラブル時間領域計測システムの開発