NISTEP注目科学技術 - 2023_W57
概要
質問するコンピュータ。インターネット上には真偽はさておき,「答え」すなわち「AはBである」という命題が溢れている。ChatGPT等の自然言語生成技術は,私たちが投げかけた質問に対して,このような命題を組み合わせて流暢な回答を返すことができる。しかし現時点でコンピュータが質問をすることはない。そもそもコンピュータに質問をさせるという需要がない。しかし,VUCAと呼ばれる現代において,明確な答えがないどころか,そもそもの問題も曖昧である。このような時代においては答えよりも優れた問いの方が重要である。科学的な研究で言えば,優れたリサーチクエスチョン(RQ)は優れた答えを出す以上に重要かつ困難だと言われる。特にこれだけ科学技術が発展し,膨大な知識(命題の集合)が蓄積された現代において,未探索のRQ(命題の疑問形)を見つけることは極めて困難である。しかしコンピュータはこれら膨大な知識を瞬時探索することが可能であり,未探索のRQを効率的に見つける技術を開発できれば,余計な労力を研究に費やす必要がなくなるであろう。しかし,問いを発するためには,広い意味での言語によって規定される命題という,この世界を理解するための「部分」の集合以上の全体性(ゲシュタルト)を認識した上で,このゲシュタルトと命題集合との,言語化できていないギャップに気づく,すなわち「疑問」を持ち,それを問いにする必要がある。現在の技術ではこのような言語化できないものを扱うことができないため,新しい技術が必要である。
キーワード
問い(質問) / ゲシュタルト / 言語 / 知識
ID | 2023_W57 |
---|---|
調査回 | 2023 |
注目/兆し | 兆し |
所属機関 | 大学 |
専門分野 | その他 |
専門度 | 高 |
実現時期 | - |
分析データ 推定科研費審査区分(中区分) | 61 (人間情報学) |
分析データ クラスタ | 29 (社会心理学・行動経済学) |
研究段階
科学的な問い(RQ)の核となる疑問が何よって生じるかを明らかにした。私たちの脳は常に予測をし,危険を回避しようとしている。この予測に必要なものが「AならばB」という基本的な形式をもつ命題という,因果関係あるいは包含関係である。すなわちAが分かればBが分かることにより,これらをつなげて演繹推論して新しい命題を作ることにより未来を予測できる(例えば理論物理学や数学)。このような予測のもとになる基本的な命題は帰納推論によって得られる(例えば分類学や法則を導こうとする基礎科学)。そしてこうした命題は,新しい事実を説明したり,ゴールを実現するために再構成されたりといった仮説推論を可能にする(例えば工学や応用科学)。このように科学技術は,帰納推論→演繹推論→仮説推論という3つの論理推論によって発展していく。しかしこれらはあくまでも推論であるため,それぞれの論理推論は現実とのギャップを常に抱えている。このギャップに疑問を抱き,RQとして探究することにより,それぞれの分野の知識は精緻化され,進化し,時にはパラダイムシフトを引き起こす。現在,これら3つの論理推論と現実とのギャップの観点を整理している段階であり,このギャップを質問として挙げさせるテストと,これら3つの論理推論を通じてそれぞれにRQを生成する探究型授業の開発を行っている。これらによって得られた知見を新しいAI技術の開発に応用することを試みている。
インパクト
コンピュータが生成したRQにより研究が効率化されるであろう。
コンピュータが生成したRQにより私たちの創造性が促進されるであろう。
私たちが答えよりも問いを大切にするようになり,創造的な社会になるであろう。
問いはそれが向けられた人の内発的動機付けを促すため,問いを共有することにより主体的で協働的な学びや課題解決を促すであろう。
コンピュータが生成したRQにより私たちの創造性が促進されるであろう。
私たちが答えよりも問いを大切にするようになり,創造的な社会になるであろう。
問いはそれが向けられた人の内発的動機付けを促すため,問いを共有することにより主体的で協働的な学びや課題解決を促すであろう。
必要な要素
現在のAI,すなわち広い意味での機械学習の技術では,帰納推論ができない。答えの付与されたデータを学習することにより,例えば人の顔を認識するという演繹推論は可能である(教師あり学習)。また,ゲームなどにおいて勝ち負けの基準が設定されていれば,その基準をゴールとして逆算することにより次の一手を決定するという仮説推論も可能である(強化学習)。一方,答えなどのラベルがないデータを分類したり,そこから規則を導くという「教師なし学習」は帰納推論に相当するが,いくつに分類するかとか規則を導くための誤差をどこまで許容するかなど,人間が設定しなければならないハイパーパラメータを必要とするため,厳密にはコンピュータだけで帰納推論することは不可能である。しかし,機械学習の技術として,ベイズ推定などの推定技術が出てきており,これらの技術を応用すればコンピュータにより帰納推論が可能となり,言うなればゲシュタルトの認識が可能となり,そのゲシュタルトと持っているデータ集合とを比較することによりギャップを認識し,自発的な問いを生成できるのではないかと考えている。
ただし,コンピュータが世界中の膨大な命題に基づいたRQを生成できるようになると,(1)元の命題の真偽を問わずに誤ったRQを生成するとかえって研究の効率を阻害する可能性があり,また(2)人類や地球全体にとって有害なRQを生成してしまう可能性もある。
ただし,コンピュータが世界中の膨大な命題に基づいたRQを生成できるようになると,(1)元の命題の真偽を問わずに誤ったRQを生成するとかえって研究の効率を阻害する可能性があり,また(2)人類や地球全体にとって有害なRQを生成してしまう可能性もある。