NISTEP注目科学技術 - 2023_W50

概要
新規海水淡水化膜の開発
総務省統計局「世界の統計2021」では,経済が発展した過去100年間における水の需要動向から,水消費の増加率は,人口増加率に対して約2倍になり,2050年には世界人口が約100億人近くになると予想されている.ここから水資源は最低でも現在の2.6倍の量が必要になると予測されている.このため海水を淡水化させることで飲用水を得るシステムの開発が求められているが,この淡水化には脱塩化機能を組み込まないとならない.多くの淡水化装置には,RO膜という特殊な膜が使われており,RO膜に海水を逆浸透させて淡水を製造している.ポリアミド系複合膜の高分子膜が主流で用いられているが,海水淡水化膜は高圧で使用されるため,高い物理的耐久性や高い脱塩性能(主に塩素やホウ素の除去性能)が求められている.

キーワード
炭素材料 / 海水淡水化 / 淡水化膜
ID 2023_W50
調査回 2023
注目/兆し 兆し
所属機関 大学
専門分野 ナノテクノロジー・材料
専門度
実現時期 -
分析データ 推定科研費審査区分(中区分) 22 (土木工学)
分析データ クラスタ 31 (環境化学)
研究段階
 炭素材料の中で,酸化グラフェンナノシート膜が約95%の脱塩性能を示し,新たな海水淡水化膜として研究報告がされている(例えば,R. K. Joshi, P. Carbone, F. C. Wang, V. G. Kravets, Y. Su, I. V. Grigorieva, H. A. Wu, A. K. Geim, R. R. Nair, 2014: Precise and Ultrafast Molecular Sieving Through Graphene Oxide Membranes, Scienceや,K. Guan, S. Wang, Y. Ji, Y. Jia, L. Zhang, K. Ushio, Y. Lin, W. Jin, H. Matsuyama, 2020: Nanochannel-confined charge repulsion of ions in a reduced graphene oxide membrane, Journal of Materials Chemistry A).これは,グラフェンの構造を一部酸化させることにより,エポキシ基およびカルボキシル基,カルボニル基,水酸基など種々の酸素含有官能基を導入させることが可能となり,これらの官能基が塩化物イオンと静電反発を起こすことで高効率の脱塩が可能となる.
そこで本研究では,同じ炭素材料であるカーボンナノチューブ(CNT)もグラフェン同様に酸素含有官能基の導入=酸化CNTの作製が可能であると考えた.CNTは高機械強度,軽量,高熱伝導性といった性質を示し,宇宙エレベータの線材としても期待されている素材であることから,グラフェン膜よりも高い物理的安定性と耐久性を示すと考えられる.また,グラフェンは工業利用が期待されているが,グラフェン自体の厚みが1nm以下であるため,この淡水化システムに組み込むためのRO膜とするには,グラフェンを何層も「積層」させる工程が必要となってしまう.CNTの場合は,CNT同士を絡ませる,といった処理のみで簡易に膜化が可能であると考えている.
インパクト
 SDGsの「6.安全な水とトイレを世界中に」のターゲット6.4「2030年までに、全セクターにおいて水利用の効率を大幅に改善し、淡水の持続可能な採取及び供給を確保し水不足に対処するとともに、水不足に悩む人々の数を大幅に減少させる。」に示されているように,世界人口増大に伴う海水淡水化システムの早期的な開発が求められている問題を再認識し,これを解決する技術が必要であると考えている.
必要な要素
CNTを高分散で懸濁でき最適溶媒が分からない.基礎的知見がまだまだないため,このあたりの整理が必要