NISTEP注目科学技術 - 2023_E63

概要
環境DNAを利用した生物モニタリング技術の高精度化・高頻度化・広域化が注目されています。環境DNAは水や土などの環境サンプルから生物のDNAを検出し、その環境に生息している可能性のある生物を網羅的にリストアップする技術です。すでに環境DNA技術はある海域の魚の網羅的検出やモニタリングに利用されており、今後ますますその利用は拡大していくと考えられます。一方で、現在のところその技術は「種の検出」にとどまっており、今後は「種内変異の検出」「個体の検出」といった高解像度の生物検出を可能にする技術の開発が急がれています(種内変異の検出についてはすでにいくつか研究例あり)。また、水域の生物のみならず陸域の生物を効率的に検出するために「空気中の環境DNA検出」の研究も進んでいます。さらに、生物モニタリングを広域化・高頻度化するために、(1)市民科学との融合(市民によるサンプリング)、(2)ドローンなどのロボット技術や自動採水機といった工学分野との融合、が急がれています。このような生物モニタリング技術の開発・発展はTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)のような企業に生物多様性情報の開示を義務付けるルールの整備が進んでいることも関連して、基礎科学会のみならず産業界からも注目されています。
キーワード
環境DNA / 生物モニタリング / 環境RNA / 生物多様性 / 生態系サービス
ID 2023_E63
調査回 2023
注目/兆し 注目
所属機関 大学
専門分野 ライフサイエンス
専門度
実現時期 5年未満
分析データ 推定科研費審査区分(中区分) 40 (森林圏科学、水圏応用科学)
分析データ クラスタ 51 (生物生態・多様性)
研究段階
種内変異の検出についてはすでに先駆的な研究が数例出版されている。個体の識別・検出については知る限り1例のみ研究例があるが、さまざまな分類群の生物に渡って汎用的に利用できる段階ではない。工学分野との融合についても進みつつあり、陸域でのドローンを用いた環境DNAサンプリング技術の開発や海中ドローンを用いたサンプリング技術が開発段階である。また、広域の生物多様性情報をカバーするためのデータベースの開発なども進んでいる。
インパクト
あらゆる場所であらゆる生物情報がモニタリング・利用可能になれば、社会・企業・水産業・農業において大きな影響があると予想される。例えば、自然由来の疫病(鳥インフルエンザなど)の蔓延の事前予測、水産有用魚種(サンマ・イワシなど)の増減の予測、農業害虫の発生予察、企業活動の生物多様性への影響評価およびそれに伴う生態系サービスへの影響予測、などが期待される。また、気候変動にともなる生態系資源の変動予測にも応用可能と考えられる。
必要な要素
要素技術としては、核酸分析技術(シーケンサー)の発展が欠かせない。また、現状では核酸解析よりは現場でのサンプリング・DNAやRNAの抽出がネックになることが多いため、ロボット技術を応用した高頻度・他検体のサンプリング・核酸抽出を容易にするための技術開発が望まれる。DNA配列解析技術の発展も望まれる。これについては近年発展が著しいAI技術との高度な融合が期待される。また、世界的な技術の発展に付いていくためには若手研究者への支援・育成が必要である。

TNFDなどと関連して生物多様性情報への企業の関心も高まりつつあるため、研究者の側から企業への理解を深める、といったアプローチも重要である。