NISTEP注目科学技術 - 2023_E626
概要
アディティブマニュファクチャリング、または3Dプリンティング・3D積層造形の中でも、特に金属粉末を選択的に焼結する手法は、新しい製造技術の一つとして注目され、従来の製造法では不可能であった複雑形状の部品の一体成形が可能になるなどの利点を有し、一方で交換部品のストックを減らすなどの活用も含め、利用価値が高い製造法である。この製造過程の現象は、金属粉末や焼結後の組織レベルからマクロな構造部品のレベルまでマルチスケール問題としてとらえられる。また、熱・粉末・固体・流体のマルチフィジックス問題である。材料種類としても、鋳造などの従来法では限定されることがあったが、種々の金属種が一つの製造装置で使用可能であり、たとえば医療デバイスでは患者の金属アレルギーの問題が解消されるといったメリットも生まれつつある。現在、我が国においても国産および欧米製の3Dプリンターが多数導入されているものの、欧米に比べると、技術開発と応用は大幅に遅れていると言わざるを得ない。アカデミアでもリードする学協会が限定的であり、マルチフィジックス問題に対処する異分野の知が集う場の形成が遅れている。今後、産官学の連携が強化され、急速な発展をとげる必要がある分野であり、またそれが期待される。
キーワード
アディティブマニュファクチャリング / 3Dプリンティング / 3D積層造形 / DfAM(Design for Additive Manufacturing)
ID | 2023_E626 |
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調査回 | 2023 |
注目/兆し | 注目 |
所属機関 | 大学 |
専門分野 | ものづくり |
専門度 | 高 |
実現時期 | 5年未満 |
分析データ 推定科研費審査区分(中区分) | 18 (材料力学、生産工学、設計工学) |
分析データ クラスタ | 40 (材料工学) |
研究段階
多くのメーカーから装置開発がなされ、欧米製も含めて企業への導入が進んでいる。一方、初期欠陥がある問題、製品の品質保証論が定まっていない問題など、基礎的検討がなされているものの、我が国では応用まで進んだ事例は、部材の軽量化という用途に限定的ともいえる。ヒートシンクへの応用、医療デバイスへの応用も研究段階にはあるが、今後は急速な発展が期待される。設計論(Design for Additive Manufacturing, DfAM)の確立には、シミュレーション技術の進展も必要である。現在は、日本金属学会では金属の専門家を中心とした組織的な議論が進んでいるが、他の材料系・ものづくり系の学会(たとえば日本機械学会、日本材料学会など)やシミュレーション系の学会(たとえば日本機械学会、日本計算工学会など)では、このテーマを中心に議論するグループ形成は進んでおらず、企業の努力に比してアカデミアの研究体制構築が遅れていると言わざるをえない。
インパクト
技術・製造法の改良の一つであるから、基本的には新製品開発や産業界の発展に寄与するものであるが、実用が進んだ先には、たとえば医療デバイスの患者別の治療器具が製造された場合に我々の日常生活へのフィードバックも得られるし、顧客のカスタマイズ製品による新たなサービス・事業の創出も期待される。
必要な要素
現在は、アカデミアで多くの専門家が集まる学協会の場の形成が不十分であり、これを整備することが必須である。企業努力に頼る場合の問題として、個々の企業のトップシークレットになっているノウハウや、多くの失敗により得た経験知が公開されないため、アカデミアによる数理的な解明との融合が必須である。3Dプリンティングの良い面と、初期欠陥や表面粗さ、再現性(ばらつき)などの悪い面の両面から基礎研究を重ね、その知の集約を産業界にフィードバックする仕組み、取り組みが必要であろう。