NISTEP注目科学技術 - 2023_E625
概要
Chat GPTに代表される生成AIの誕生により,データ科学の研究領域は一つの到達点に達している.ポストAIの時代では,こうした生成系AIなどがよりエキスパートシステムに取り込まれることとなり,膨大な専門知識の中から利用者が欲する適切なデータや知識が自然言語や数値として語られる時代がやってくるものと想定される.また,従来の演繹モデルに基づく自然理解や応用も深化していくことも期待できる.そのような未来の社会において,科学技術で実現されることが期待されるのは,「時空マルチスケール,マルチモデルに基づく動的な意思決定モデル」の構築である.すなわち,高度なAIがもたらす粒度の異なる膨大な知識と,様々な階層を記述する多用な演繹的な理論的知識を高度につないで,問題解決のために人類が意思決定を行う指針を得るための定量化である.これらに共通するキーワードは[動的な時空間の多階層スケール性]と[マルチモデル]である.最適な意思決定を支えるためには最適化問題を解く必要があるが,最適化を達成するための評価関数については時間変化が加わり動的に変化していく.また空間的な構造も大きな構造とまたスケールや記述するモデルが異なる場合も多く,これらをどう評価に取り組んで逐次的に最適な解を提示,それをリアルタイムで提示できるような動的最適化の理論的枠組とその実装が必要となる.これまで,意思決定は主に定性的な状況判断がメインであったが,おうした科学技術が展開されることで,たとえば気候変動,防災,エネルギー問題,水質汚染,生態系保全,健康長寿といった複合的な要素が複雑に絡み合って人間の行動指針を決めるための評価関数が動的に変化しているような現象(生命・医療・環境・人文分野など)に対応して,人類がよりよい意思決定が逐次できるような仕組みができることが期待される.
キーワード
数理最適化 / マルチスケールモデリング / 意思決定
ID | 2023_E625 |
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調査回 | 2023 |
注目/兆し | 注目 |
所属機関 | 大学 |
専門分野 | その他 |
専門度 | 中 |
実現時期 | 5年以降10年未満 |
分析データ 推定科研費審査区分(中区分) | 61 (人間情報学) |
分析データ クラスタ | 46 (データサイエンス/機械学習・AI) |
研究段階
理論側では最適化理論は連続的最適化,離散最適化といった数理が著しく発展しているが,これらの最適化関数が時間的に変更する,あるいは複数のスケールの異なる世界での評価関数からよりよい最適化を得る,評価関数が必ずしも凸でない状況で最適な解を探し出す方法など以前多くの問題存在し,それらを解決する研究開発が必要な段階である.その解決においてはよりよい数理モデルの構築や機会学習やAIがもたらす膨大な帰納的知識を制約条件として加えるような理論的枠組などを構築する必要がある.このように本科学技術テーマは原理・現象がいまだ十分に明確になっていない段階である.
インパクト
現在の社会課題は,単一の最適化された状況が利益相反な状態で意思決定に直接貢献できないことが多い.気象・気候などの環境分野,DNA・細胞から生態・進化までを扱う生命分野,複雑システムとしての人体を扱う医療分野などでは,多様な時空スケールかつ複雑な相互作用を考慮した演繹モデルとAIなどが導き出す膨大なデータからの帰納的データのそれぞれの中でもっとも効果的かつ受入可能な選択肢をとるための指針
必要な要素
マルチモデル・マルチスケールモデリングの数理科学やその最適化問題,相反する最適化から意思決定を導き出すための(定量的)社会科学的アプローチなどが必要であると考える.