NISTEP注目科学技術 - 2023_E579

概要
タンパク質超分子集合体の自己組織化現象の制御技術。
近年、生物学の領域ではタンパク質による相分離現象が広く注目されているが、その物理的・化学的メカニズムにはまだ多くの不明な点が残されている。一方、クライオ電子顕微鏡、AFM、超解像顕微鏡などの原子・分子レベルの観測技術の発展によって、タンパク質やタンパク質集合体が取る構造が明確になりつつある。そのような背景の中で、特定のタンパク質による超分子集合体が自己組織化によって高秩序のメゾ構造(ナノとマイクロの中間的な構造)を形成する事実が明らかになってきた。自己組織化による高秩序の構造・パターンの形成は、これまで超分子化学やソフトマター物理の領域で深く研究されてきた現象であるが、生物学の分野でその研究を深める機運が高まっていると予想する。生物・細胞機能の本質を担うタンパク質の自己組織化現象を解明し制御することで、高秩序構造形成現象の理解および産業への応用(ナノファブリケーションや自己再生素材の開発)を強く進める可能性がある。
キーワード
自己組織化 / 超分子集合 / メゾ構造 / ナノファブリケーション / 自己再生材料
ID 2023_E579
調査回 2023
注目/兆し 注目
所属機関 大学
専門分野 ライフサイエンス
専門度
実現時期 5年以降10年未満
分析データ 推定科研費審査区分(中区分) 28 (ナノマイクロ科学)
分析データ クラスタ 54 (理化学/分子化学)
研究段階
近年、タンパク質による液・液相分離などの生体分子の相分離現象が広く受け入れられてきた。しかしながら、タンパク質の相分離現象による高秩序構造形成の理解は進んでいない。生体の複雑なタンパク質が超分子的に高秩序構造を形成する物理的・化学的なメカニズムの解明がこれから研究室レベルで進められると想定される。
インパクト
タンパク質の自己組織化による高秩序の構造・パターンの形成の研究は、生物学、化学、物理学の領域を横断する新分野の学術領域を創出する。タンパク質超分子集合体による高秩序構造形成の物理的・化学的なメカニズムが解明された後、タンパク質超分子操作による高秩序構造形成の制御技術が速やかに発展し、有機化合物、高分子ポリマー、金属・錯体などにとって代わるペプチド結合による材料作製技術(生物による産生が可能)が開発されると予想する。この技術は、生体由来の物質を利用する点および超分子的振る舞いを利用する点で多くの可能性を有している。自己再生材料、ナノファブリケーションなどの分子の特性を利用するナノテクノロジー技術に特に高い親和性を示し、完全に自己再生的なデバイスや新しい計算技術の構築を促す。また、環境全体として、エネルギー・資源の有効利用につながる。
必要な要素
生物学を中心に進められている一見複雑なタンパク質による相分離現象・自己組織化現象・超分子集合現象の科学を化学・物理学の領域で扱えるシンプルな科学に昇華するための学際的な研究環境の整備が必要である。当該技術の広い応用例・可能性を考えれば、一度研究室レベルでブレークスルーが起きれば、容易に産業へと波及し技術の応用が進むと考えられる。まだ萌芽期の当該技術を日本発の技術として展開できるように、産業界のみならず国からも強い支援があることを期待する。