NISTEP注目科学技術 - 2023_E572
概要
所望の特性を有する材料の自動設計・自動合成
マテリアルズ・インフォマティクスとよばれるデータ駆動型の材料研究の分野で実現が期待されている。材料の構造や組成を入力とし、その物性を予測する機械学習モデルを構築し、その逆写像を求めることで所望の特性を有する材料の構造や組成を予測する。このサイクルを繰り返すことで、所望の特性を有する材料を探索する。また、同定された材料の合成方法を機械学習により予測し、ロボティクスによる自動実験を組み合わせることで、自動合成を行う。これにより新材料の探索が完全に自動化され、研究開発の速度が大幅に向上すると期待される。
マテリアルズ・インフォマティクスとよばれるデータ駆動型の材料研究の分野で実現が期待されている。材料の構造や組成を入力とし、その物性を予測する機械学習モデルを構築し、その逆写像を求めることで所望の特性を有する材料の構造や組成を予測する。このサイクルを繰り返すことで、所望の特性を有する材料を探索する。また、同定された材料の合成方法を機械学習により予測し、ロボティクスによる自動実験を組み合わせることで、自動合成を行う。これにより新材料の探索が完全に自動化され、研究開発の速度が大幅に向上すると期待される。
キーワード
マテリアルズ・インフォマティクス技術 / データ駆動科学 / 機械学習
ID | 2023_E572 |
---|---|
調査回 | 2023 |
注目/兆し | 注目 |
所属機関 | 大学 |
専門分野 | ナノテクノロジー・材料 |
専門度 | 高 |
実現時期 | 5年以降10年未満 |
分析データ 推定科研費審査区分(中区分) | 61 (人間情報学) |
分析データ クラスタ | 46 (データサイエンス/機械学習・AI) |
研究段階
この科学技術の各要素技術はすでに研究室レベルでは開発が進んでいる。(1)所望の特性を有する材料の構造や組成の予測に関しては、ベイズ最適化を行うことで無機材料や低分子化合物の領域では報告例が存在する。一方で、高分子材料分野などでは研究が遅れている。この遅れは、公開されているデータベースの量や質に依るところが大きい。現在、実験や特許、シミュレーションを用いたデータベース開発のプロジェクトが国内外で複数進行中であるため将来的には解決されていくと思われる。(2)材料の自動設計では、新たな材料・分子構造を適切に生成していく必要がある。生成AIなどの機械学習的手法を用いた報告例があるが、実際に合成できる材料・分子が生成されない場合があるなどの課題は残る。この問題は生成AIだけでなく合成ルールを援用する方法や、化学反応予測の機械学習モデルの逆問題を解くことで逆合成プロセスを推定することにより合成可能性のより高精度な評価が可能になると予想される。(3)提案された材料・分子の自動合成も先に述べた逆合成プロセスを推定することで実現が予想される。機械学習による逆合成プロセスの推定はいくつか報告例が存在しているが、各段階に必要な溶媒や触媒の提案や経済性などの要素も考慮することが実際に合成する上で重要となる。この要素技術に関してもデータベースの整備がボトルネックとなっている。(4)自動合成装置による自動実験、この装置と機械学習を組み合わせた研究例はすでに報告されており、産学で技術開発は進んでいる。課題としては、様々なニーズに応える汎用性をどれだけ実現できるかと考えられる。現状は用途に応じて異なる装置やカスタムが必要となり、全てのニーズを網羅しようとすると導入コストが非常に大きくなる。
インパクト
この技術が実現すると、あらゆる素材開発が加速され、様々な機能を有する新材料の創出が盛んになる。機能性材料は、様々な産業における基礎であるためその波及効果は多岐に渡る。例えば、生分解性プラスチックは海洋汚染であるマイクロプラスチック問題の解決に寄与し、ガス分離膜やガス吸着材は二酸化炭素の分離・回収技術に寄与するなど、環境・SDGsへの波及効果も大きい。また、二次電池や太陽電池のさらなる高性能化、核融合炉のブランケット材といったエネルギー問題への波及も期待される。
必要な要素
この技術を実現するための機械学習や自動合成装置といった要素技術はすでに存在している。問題は、十分な量と質を有する材料データベースが整備されていないことである。また、自動合成装置も、様々なニーズへの対応が求められるが、汎用性を高くすると導入コストも高くなると予想される。そのため、1企業や1大学で所有することが難しい規模になると考えられる。そのため、スーパーコンピューターや大型放射光施設などのように、産学で使用できあらゆるニーズに対応できる大型の自動実験共用施設を整備する必要がある。また、広く社会実装されるためには、インターフェイスが使いやすいことも重要と考えられる。昨今、ChatGPTが社会的に話題となっているが、その背後に存在する大規模言語モデルやそれに関する技術は数年前からすでに存在していた。ChatGPTは小学生でも使えるインターフェイスを提供し、万人が大規模言語モデルにアクセス可能になったことで昨今のような社会的インパクトとイノベーションをもたらした。
所望の特性を有する材料の自動設計・自動合成技術が実現した場合、新材料開発で最も重要になるのは、材料にどのような機能を持たせるかというデザインである。これは商品企画や市場調査、特定の社会問題などに精通する人のアイデアから良い機能デザインが生まれる可能性もある。そのため、技術に明るくない人でも材料の自動設計・自動合成技術にアクセス可能なインターフェイスの整備が、社会的インパクトをもたらすために重要と考えられる。
所望の特性を有する材料の自動設計・自動合成技術が実現した場合、新材料開発で最も重要になるのは、材料にどのような機能を持たせるかというデザインである。これは商品企画や市場調査、特定の社会問題などに精通する人のアイデアから良い機能デザインが生まれる可能性もある。そのため、技術に明るくない人でも材料の自動設計・自動合成技術にアクセス可能なインターフェイスの整備が、社会的インパクトをもたらすために重要と考えられる。