NISTEP注目科学技術 - 2023_E571

概要
熱力学において,ギブスが熱機関の理論であった熱力学を化学反応論に拡張し、科学に偉大な発展をもたらしたように、単なる内挿モデルを超えた一般原理を導き、それを大胆に外挿する人間の科学的洞察力は、科学を駆動する源泉です。しかし、材料開発などで制御すべき対象となる非線形・非平衡現象などの複雑な系でその洞察力を働かせることは時に困難です。近年、深層ニューラルネットワーク(DNN)をはじめとした表現能力の高い機械学習モデルを用いて、複雑な科学データを分析・モデル化する研究が活発に行われています。しかし、その多くは内挿的なモデル構築に留まり、さらに、モデルは多量のパラメータをもつ非線形関数である為、その解釈が非常に困難です。これに対して、複雑なデータの内挿モデル構築を得意とする深層ニューラルネットワークから解釈可能な情報を抽出し、科学者が一般原理を発見することを支援するデータ駆動理学と言える枠組みを開発する研究が活発化しています。また材料開発で問題となる、高コストでサンプル数が極端に少ない実験・計測と、サンプル数は多いが現実との一致度合いが少ないシミュレーションとの間を繋ぐという課題に対しても、このような深層ニューラルネットワークから解釈可能な情報を抽出する手法は、一つの解決方法を提供することが期待されます。
キーワード
データ駆動理学 / 解釈可能AI / 機械学習 / データ駆動科学 / スモールデータ
ID 2023_E571
調査回 2023
注目/兆し 注目
所属機関 大学
専門分野 宇宙・海洋・科学基盤
専門度
実現時期 5年以降10年未満
分析データ 推定科研費審査区分(中区分) 61 (人間情報学)
分析データ クラスタ 46 (データサイエンス/機械学習・AI)
研究段階
機械学習系や理論物理系の研究室で、主にシミュレーションデータを対象に開発している段階で、実際の実験・計測データへの適用はまだ事例が少ない。
インパクト
これまで困難であった、非線形・非平衡系に属する材料開発プロセスに対して、データ駆動による制御や予測が可能となり、革新的な材料開発が実現されます。また、GAFAなどの機械学習手法の開発に強い動機を持つ企業のある諸外国と比較して立ち遅れた、我が国の機械学習研究が、物理・材料科学という動機を得て解釈可能AIの分野で世界をリードできるようになる可能性があります。
必要な要素
物理学者と機械学習研究者が、お互いの研究を理解できる程度の深さで協業して、有限のデータ・精度で物理モデルを帰納的に推定した場合に、物理モデルが一意に定まるか(不定性がどの程度あるか)などの、演繹的推論をしてきた物理と、帰納的推論をしてきた機械学習研究者の間にあるギャップを埋める必要があると考えます。