NISTEP注目科学技術 - 2023_E570

概要
待ち望まれていた技術がこの数年で進展しているものとして、人類学・考古学における生物遺存体の分析手法の発展がある。2022年、マックス・プランク研究所のスヴァンテ・ペーボ博士が古代DNAの解析でノーベル賞を受賞した。分析のための技術は現在も発展を続けている。そこには、タンパク質の網羅的解析であるプロテオミクスの応用であったり、土壌などからの環境DNAの採取なども含まれる。古代DNAの解析においては、例えば骨を削るなど、通常は遺跡から発掘された生物遺存体を破壊する必要があった。ここ数年で、DNAやタンパク質の非破壊の分析手法が注目されている。非破壊の手法であることから、資料を管理している考古学者や博物館の学芸員からも受け入れやすい方法となっている。

Essel, E., Zavala, E. I., Schulz-Kornas, E., Kozlikin, M. B., Fewlass, H., Vernot, B., ... & Meyer, M. (2023). Ancient human DNA recovered from a Palaeolithic pendant. Nature, 1-5.

Sponheimer, M., Ryder, C. M., Fewlass, H., Smith, E. K., Pestle, W. J., & Talamo, S. (2019). Saving old bones: a non-destructive method for bone collagen prescreening. Scientific reports, 9(1), 13928.
キーワード
古代DNA / プロテオミクス / 考古学
ID 2023_E570
調査回 2023
注目/兆し 注目
所属機関 大学
専門分野 その他
専門度
実現時期 5年未満
分析データ 推定科研費審査区分(中区分) 43 (分子レベルから細胞レベルの生物学)
分析データ クラスタ 10 (腫瘍学/創薬・治療法開発)
研究段階
すでに開発はされており、Natureなどの高IFの雑誌で発表されているが、普及しているとはまだいいがたい段階にある。
インパクト
過去の人類についての研究は、「ヒトとはどのような生き物なのか」についての知見を提供し、社会に共有される人間観をきずく基礎となっている。また研究の結果は、各地域で文化財や資料がどのような役割を果たしているかに依存するものの、博物館などの展示に反映されれ、地域の人々に還元される。また、時として、先住民をめぐる諸問題に知見を提供することもある。
必要な要素
現状では、どの程度幅広い資料を対象とすることができるかは、まだ未知数である。また、実際のところ、マックス・プランク研究所やコペンハーゲン大学など、一部の機関しか規模と精度の両方を備えることができていない。そうした理由もあり、解析をおこなう側が資料を提供する側に十分な還元をおこなわないなど、植民地主義的な構造を再生産していることも指摘されている。加えて、考古遺物の分析をこれまで担ってきた考古学者と、分析のための生物学のトレーニングを受けてきた研究者のあいだに乖離があることも事実である。考古学の知見も日進月歩であり、生物学者が古い知見に依拠して結果の解釈をおこなうことで、分析結果を十分に活かせない可能性もある。同じく、生物学者が発掘に参加することは多くはないし、主導することも稀である。そのため、環境DNAなどを得るのに適切な発掘作業や資料の管理がおこなわれていない可能性もある。

Adame, F. (2021). Meaningful collaborations can end ‘helicopter research’. Nature, 10.