NISTEP注目科学技術 - 2023_E567
概要
近年、AI・ICT技術の著しい発展に伴い、養殖業の効率化を目的とした、スマート養殖にかかる研究開発が、様々な研究所・大学で実施されている。
①カメラ・音響技術等を用いた飼育魚のモニタリング技術
飼育魚の成長状況(魚の体重や個体数等)は収入に直結するために、養殖業者にとっては重要な指標である。これまで、定期的に一部の個体を直接捕獲し、体重計測を行ってきたが、直接捕獲・計測は非常に労力がかかり、魚体を傷つけることにもつながっていた。加えて、養殖生簀内には、時に数千個体の魚を飼育していることから、全数を計測することは不可能に近く、一部の個体の計測結果から、生簀網全体の状況を推察するしかなかった。
近年、水中にカメラを沈めて、AI技術の複合により魚体サイズを非接触・自動で計測することで、簡単に、かつ網羅的に魚体重・魚体長を正確に計測しようとする試みが行われている。加えて、スキャニングソナー等の音響技術を用いて、魚から反射される音波を計測することにより、魚体重を推定する試みもなされている。
②ICT技術を用いた遠隔モニタリング・管理システム
養殖場では、水質(溶存酸素等)や水温は、飼育魚にとって常に適切になるように管理しなければならない。ただし、急な気象の変動等により、急激な水温上昇や水質の変化が起こることがあり、その場合即時に対応しなくてはならない。また、給餌の時には基本的に現地に赴いて給餌作業をする必要があることから、特に海面養殖では労力を要する。加えて、餌のコストは養殖業のコストの半分以上を占めるといわれていることから、以下に無駄な餌の量を削減するか、といったことが課題と言える。
こうした問題を解決するために、遠隔で養殖魚の効率的な管理や状態把握ができるようなシステム開発がなされている。例えば、水質でいえばロガー等を用いた遠隔管理システムと、水質が危険域に達した際にアラートがなるシステムがリリースされている。給餌で言えばスマート自動給餌機として、オペランド給餌(魚が空腹を感じたときに、魚自身で自動給餌機を作動させるシステム)、カメラ技術を複合し、魚の空腹度を判定して給餌するシステム等、AI技術も複合した技術開発が行われている。
①カメラ・音響技術等を用いた飼育魚のモニタリング技術
飼育魚の成長状況(魚の体重や個体数等)は収入に直結するために、養殖業者にとっては重要な指標である。これまで、定期的に一部の個体を直接捕獲し、体重計測を行ってきたが、直接捕獲・計測は非常に労力がかかり、魚体を傷つけることにもつながっていた。加えて、養殖生簀内には、時に数千個体の魚を飼育していることから、全数を計測することは不可能に近く、一部の個体の計測結果から、生簀網全体の状況を推察するしかなかった。
近年、水中にカメラを沈めて、AI技術の複合により魚体サイズを非接触・自動で計測することで、簡単に、かつ網羅的に魚体重・魚体長を正確に計測しようとする試みが行われている。加えて、スキャニングソナー等の音響技術を用いて、魚から反射される音波を計測することにより、魚体重を推定する試みもなされている。
②ICT技術を用いた遠隔モニタリング・管理システム
養殖場では、水質(溶存酸素等)や水温は、飼育魚にとって常に適切になるように管理しなければならない。ただし、急な気象の変動等により、急激な水温上昇や水質の変化が起こることがあり、その場合即時に対応しなくてはならない。また、給餌の時には基本的に現地に赴いて給餌作業をする必要があることから、特に海面養殖では労力を要する。加えて、餌のコストは養殖業のコストの半分以上を占めるといわれていることから、以下に無駄な餌の量を削減するか、といったことが課題と言える。
こうした問題を解決するために、遠隔で養殖魚の効率的な管理や状態把握ができるようなシステム開発がなされている。例えば、水質でいえばロガー等を用いた遠隔管理システムと、水質が危険域に達した際にアラートがなるシステムがリリースされている。給餌で言えばスマート自動給餌機として、オペランド給餌(魚が空腹を感じたときに、魚自身で自動給餌機を作動させるシステム)、カメラ技術を複合し、魚の空腹度を判定して給餌するシステム等、AI技術も複合した技術開発が行われている。
キーワード
バイオマス資源(木質バイオマス) / 人工知能・機械学習・深層学習・強化学習 / イメージング技術(リアルタイムイメージング・バイオイメージング(ライブセル・インビボ)・光イメージング・毛髪イメージング・微細領域イメージング) / 地球環境・水循環・環境科学技術
ID | 2023_E567 |
---|---|
調査回 | 2023 |
注目/兆し | 注目 |
所属機関 | 大学 |
専門分野 | 環境 |
専門度 | 中 |
実現時期 | 5年未満 |
分析データ 推定科研費審査区分(中区分) | 40 (森林圏科学、水圏応用科学) |
分析データ クラスタ | 2 (マシンインテリジェンス/センシング・データサイエンス) |
研究段階
上述のようなスマート養殖に用いられるそれぞれの要素技術としては、既に他分野で開発されたものを用いている場合が多く、これらを養殖現場に適用しているものである。
現在は、企業との共同研究・開発が進んでいるもの、あるいは企業独自で開発しているものなどが多数存在している。具体的には、どのように利用すれば水産業の課題解決につながるかといったように、産業ベースの実証研究が進んでいるものと思われる。
現在は、企業との共同研究・開発が進んでいるもの、あるいは企業独自で開発しているものなどが多数存在している。具体的には、どのように利用すれば水産業の課題解決につながるかといったように、産業ベースの実証研究が進んでいるものと思われる。
インパクト
①の技術が発展し、生簀網内の魚体を網羅的にサイズ計測ができれば、工業製品で言う「在庫の管理」が正確になることから、出荷時期や出荷金額等が明確になり、養殖業者にとって経営戦略を立てやすくなるものと考える。②については、養殖場に赴かなくても状態把握や飼育管理が可能となり、労力の軽減につながる。
中長期的な視野に立った場合、主に以下の2点についてインパクトがあるものと考える。
①高収益化・労力軽減による水産業に対するイメージ改善による水産業人口の増加
水産業は3K(きつい・きたない・危険)のイメージがあり、新規就業者が増えないことが長年の課題と言える。スマート養殖技術が発展した場合、収益性向上・経営安定性向上・労力が軽減できることから、イメージ改善につながる。また、水産業は暗黙知の部分が多いのに対して、スマート養殖技術により暗黙知を可視化できれば、誰でも簡単に収益を上げることができ、自ずと新規就業者は増えるものと考える。
②養殖生産量拡大による自給率の向上と資源回復
現在、水産資源は減少傾向にある。一方で、水産庁は自給率の向上を目指しているが、これを漁獲漁業だけで賄うのは困難と言える。高収益を上げる養殖ビジネスモデルを構築できれば、①でも呼べたように新規就業者は増加し、養殖による水産物生産量は増加するものと考える。また、漁業者が養殖業へと参入することも考えられ、相対的に天然資源への依存度が減り、資源保護にもつながると考える。
中長期的な視野に立った場合、主に以下の2点についてインパクトがあるものと考える。
①高収益化・労力軽減による水産業に対するイメージ改善による水産業人口の増加
水産業は3K(きつい・きたない・危険)のイメージがあり、新規就業者が増えないことが長年の課題と言える。スマート養殖技術が発展した場合、収益性向上・経営安定性向上・労力が軽減できることから、イメージ改善につながる。また、水産業は暗黙知の部分が多いのに対して、スマート養殖技術により暗黙知を可視化できれば、誰でも簡単に収益を上げることができ、自ずと新規就業者は増えるものと考える。
②養殖生産量拡大による自給率の向上と資源回復
現在、水産資源は減少傾向にある。一方で、水産庁は自給率の向上を目指しているが、これを漁獲漁業だけで賄うのは困難と言える。高収益を上げる養殖ビジネスモデルを構築できれば、①でも呼べたように新規就業者は増加し、養殖による水産物生産量は増加するものと考える。また、漁業者が養殖業へと参入することも考えられ、相対的に天然資源への依存度が減り、資源保護にもつながると考える。
必要な要素
スマート養殖の構築には、導入金額の課題があるものと考える。現在、スマート養殖技術の研究を行う大学・研究所・スタートアップ企業等が散見されるが、その製品は特注にならざるを得ず、どうしてもコストが高くなる。よって、導入できるのは大手の養殖業者になる傾向があり、中小の養殖業者には行き届きにくい。また、養殖業は飼育魚の状態によって収入が左右する。必然的に、斃死リスクや成長度合いの予測は、現状のスマート養殖技術を導入したとしても難しく、つまり導入コスト以上の収益性向上が見込めるかを評価することが難しいといえる。上記に関連して、コストが高くなる要因として、耐水性・防水性を強化する必要があることも挙げられる。また、誰でも技術を使用できるように、簡便なシステム構築も重要と言える。
以上から、技術的には構築されているものの、養殖業にブレイクスルーを起こすまでには至っていないものと考える。今後留意すべき点としては、これまで技術開発に着目されてきたが、いかにこうした技術のコストを抑えるか?といった課題があるものといえる。コスト競争になると、海外技術で代替してしまう可能性もあるかもしれない。加えて、経営学的・社会学的な視点から、「どのような技術をどのようなコストで開発するべきか」といった視点での研究があったら面白いと思う。
以上から、技術的には構築されているものの、養殖業にブレイクスルーを起こすまでには至っていないものと考える。今後留意すべき点としては、これまで技術開発に着目されてきたが、いかにこうした技術のコストを抑えるか?といった課題があるものといえる。コスト競争になると、海外技術で代替してしまう可能性もあるかもしれない。加えて、経営学的・社会学的な視点から、「どのような技術をどのようなコストで開発するべきか」といった視点での研究があったら面白いと思う。