NISTEP注目科学技術 - 2023_E548

概要
三次元を対象とした顕微鏡技術

透明化+Ligh Sheet 顕微鏡や、FIB-SEM、Cryo-electron tomographyなど、三次元を対象とした顕微鏡技術が、今後の注目であると考えている。

これまでは二次元の切片から三次元像を想像していたのに対して、これらの新しい顕微鏡技術では三次元を網羅的に見ることができる。
これによって
(1) 典型的な画像だけから結論を出すのではなく、三次元像を使うことで、バイアスの無い統計的な画像処理が可能となる。
(2) 三次元的に繋がりがある事が重要な構造、例えば腎臓のネフロン、小胞体膜、神経回路などを追うことが可能となる。

また、これらに共通する事として、データが非常に大きくなることから、画像処理やAIによる計算科学によるデータ処理が必須となる事である。
キーワード
3D 顕微鏡技術 / 透明化技術 / 集束イオンビーム走査型電子顕微鏡(FIB-SEM) / Cryo-electron tomography / Light Sheet 顕微鏡
ID 2023_E548
調査回 2023
注目/兆し 注目
所属機関 大学
専門分野 ライフサイエンス
専門度
実現時期 5年以降10年未満
分析データ 推定科研費審査区分(中区分) 43 (分子レベルから細胞レベルの生物学)
分析データ クラスタ 43 (医用画像工学)
研究段階
「三次元を対象とした顕微鏡技術」は比較的広い範囲を指しているために、その要素技術に応じて研究段階が異なる。しかし、透明化技術+light sheet顕微鏡については、現在は研究室で開発している段階ではあるが、顕微鏡が安く作られるようになってきていることなどから、病理検査に使うことも可能となってきている。従って、近い将来(5〜10年)に病理検査の方法として広く使われるようになる可能性が高い。また、どの顕微鏡技術にも共通する事として、三次元を対象としているために必然的にデータ量が大きく、人間が処理することが現実的ではないので、画像解析の進歩がひっすである。特に関しては、画像に写っているものが何か? を特定するセグメンテーション技術が重要で、これもAIの進歩から簡単なものは5年以内に実用化される。
インパクト
Q5が実現することで想定される社会的なインパクトとしては以下の様なものが挙げられる。

(1) 病理診断の迅速化、非属人化
 現在はトレーニングされた病理医が、適切な切片を見つけて、典型的な細胞を見つけることで病理診断を行っている。三次元を対象とした顕微鏡技術と、その処理ソフトウエアが整備されれば、定量的なバイアスの掛からない診断を下すことが可能になり、さらに癌などの場合にはそこから得られる癌遺伝子の情報を合わせる事で、より正確な診断が可能になる。

(2) 細胞内の分子の同定
 現在、クライオ電子顕微鏡と単粒子解析によって、精製されたタンパク質の原子レベルの構造は急速に進んでいる。一方、細胞内でのタンパク質については、多くが複合体をつくっていると考えられているにもかかわらず、その相互作用は三次元構造として理解されて居るものが限られている。FIB-SEM+クライオ電子線トモグラフィー技術の発展により、細胞内というコンテクストでの分子構造がわかることで、よりピンポイントでの薬の開発などが可能になる。

(3) 神経の構造から回路・記憶を導き出すことが可能に。
 脳に蓄積された記憶は、神経細胞の形として記録されているはずであるが、それを導き出すことはできていない。FIB-SEMを用いて脳全体を解析する事で、その回路、ひいいては、そこに蓄えられた記憶までもをデコードすることが可能になるのではないか?
 
必要な要素
実現に向けて必要な技術進展:
(1) AIをはじめとする三次元画像を対象とした画像解析ソフトウエアの整備。特に、それらをアプリケーション毎に開発する必要があるため、「誰もが使える」形での提供が必要になる。

(2) High-throughputで安価な顕微鏡の開発。light sheet顕微鏡、FIB-SEM、cryo-electron tomographyなど、現在はどれもそれ程スループットが高くない。これらのスループットを改良し、顕微鏡を安価にすることが、Q6に挙げたようなインパクトを産むために必要な要素である。もちろん、最先端の研究に関しては、解像度を高める、なども必要になる。