NISTEP注目科学技術 - 2023_E537

概要
光ファイバーケーブルを利用した地震観測.分散型音響センシング(Distributed Acoustic Sensing; DAS)と呼ばれる技術の発展が特に目覚ましい.
計測機から光ファイバーケーブルに光パルスを入射させると,光ファイバー中にわずかに含まれる不純物によって散乱された光が計測機に戻ってくる.ケーブルに振動が加わるとケーブルが伸び縮みし信号が戻ってくるタイミングや波形が変化する.この変化を解析することで,光ファイバーケーブルの任意の場所での伸び縮み(ひずみ)を検出することができる.この手法により長さ数十kmの光ファイバーケーブルに沿って数m間隔でひずみを計測することが可能となる.
この技術を活用すれば,従来の地震計を設置する観測手法と比較して圧倒的に高密度で揺れの空間分布を把握することが可能となる.また,特別な光ファイバーケーブルを用いる必要はなく既存のケーブルを利用することができるため,コストがあまりかからないという利点もある.海底の通信ケーブルを活用して,地震観測網が手薄な沖合・海域での地震観測を実施する試みもなされつつある.
データ量が非常に膨大となるため,ビッグデータとしての解析技術開発も進んでいる.機械学習等を活用したデータ解析アルゴリズムの開発なども進められつつある.
キーワード
ビッグデータ / 地震 / 機械学習 / DAS
ID 2023_E537
調査回 2023
注目/兆し 注目
所属機関 公的機関
専門分野 環境
専門度
実現時期 5年未満
分析データ 推定科研費審査区分(中区分) 21 (電気電子工学)
分析データ クラスタ 38 (計算機・電気通信・通信デバイス・量子計算機)
研究段階
実際に観測が実施され,研究にも活用されつつある.従来以上に高い空間密度での地震観測が可能であり,それによって地震の震源の位置をより高い精度で決めることが可能になったり,地面の下の地殻の構造を従来以上の精度で求めることが可能となりつつあり,新しい知見が得られるようになりつつある.既存の海底ケーブル(短め)を利用した実証実験も行われつつあり,多様な地球物理学的現象を計測できることがわかってきた.地震による振動を計測可能であることは示されつつあるが,「スロー地震」と呼ばれるこれまでの地震とは異なるゆっくりとしたすべり現象によって放出される微小な地震動シグナルまでも検出可能かどうか,研究が進められている.
インパクト
現在は日本近海での比較的短距離なケーブルでの計測・観測に留まっている段階だが,同等の観測が,海底通信ケーブル等で実施できれば,地球規模での広域・稠密な地震観測網が実現する.これが利用できるようになると,これまで観測が手薄だった海域下での地震活動の詳細がわかるようになり,沖合での地震の活動様式が明らかとなる.これにより,地震発生の物理メカニズムの理解が進展することが期待され,地震の発生予測の精度向上等にもつながる可能性がある.また,これまであまりよく分かっていなかった太平洋下の地殻の構造をさらに詳細に知ることができるようになり,地球の成り立ちの理解などもさらに深まると期待される.
必要な要素
ビッグデータの解析技術の進展.いまだ計測機器は高額なため,計測機器のコストの削減.
ビッグデータの解析する技術を持つ研究者(とくに若手ポスドク)の雇用の確保.