NISTEP注目科学技術 - 2023_E533
概要
以下の通り、超伝導ナノワイヤ単一光子検出器アレイを注目の科学技術として推薦する。
量子鍵配送(QKD)は量子力学的な性質を用いることで、暗号通信のための秘密鍵を安全に共有する技術である。
量子力学的性質が顕著に表れる物理系は多数存在するが、量子鍵配送や量子通信といった分野では通信技術との相性から、原則として光子を用いることとなる。この光子を測定するための単一光子検出器はQKDのみならず、光子を用いた物理学実験で重要な装置であるが、近年単一光子検出器の技術的発展がめざましい。
単一光子検出器として、光電子増倍管、アバランシェフォトダイオードの他に、超伝導ナノワイヤ単一光子検出器(SNSPD)が広く用いられている。SNSPDは超伝導薄膜を細いワイヤ状に加工した素子であり、高速性、低ノイズ性、高い検出効率などの利点が知られている。近年、このSNSPDを単一のワイヤではなく、複数のワイヤを並べてアレイ素子としたSNSPDアレイの研究が活発になされている。SNSPDは光子を検出すると超伝導状態が壊れるため、光子を検出できるようになるには冷却によって再度超電導状態に回復する必要がある。そのため、単一のワイヤでは超伝導状態に戻るまでの間、光子が検出できない。アレイとして複数の素子を並べることによって、一つのワイヤが常伝導状態になっていたとしても、その他のワイヤが超伝導状態にあるため、SNSPDアレイは単一ワイヤのSNSPDよりもより高速な光子検出が可能となる。
このSNSPDアレイはSNSPD自体の研究として興味深いだけでなく、2023年3月に中国USTCを中心としたグループのQKD実験に用いられ、その高速性によって100 Mbpsを超える秘密鍵生成率を達成している [W. Li, L. Zhang, et al., Nature Photonics, 17, 416 (2023)]。これまでの10~30 Mbpsの記録を大幅に更新しており、QKDの実用化の観点で大きな進展が期待され、ブレイクスルーとなる技術と言ってよいだろう。また、QKD以外の光子を用いた計測、分光、あるいはその他の素粒子物理学などの分野での活躍も期待できると考える。
これらの理由から、SNSPD、特にSNSPDアレイ技術を注目の科学技術として推薦する。
量子鍵配送(QKD)は量子力学的な性質を用いることで、暗号通信のための秘密鍵を安全に共有する技術である。
量子力学的性質が顕著に表れる物理系は多数存在するが、量子鍵配送や量子通信といった分野では通信技術との相性から、原則として光子を用いることとなる。この光子を測定するための単一光子検出器はQKDのみならず、光子を用いた物理学実験で重要な装置であるが、近年単一光子検出器の技術的発展がめざましい。
単一光子検出器として、光電子増倍管、アバランシェフォトダイオードの他に、超伝導ナノワイヤ単一光子検出器(SNSPD)が広く用いられている。SNSPDは超伝導薄膜を細いワイヤ状に加工した素子であり、高速性、低ノイズ性、高い検出効率などの利点が知られている。近年、このSNSPDを単一のワイヤではなく、複数のワイヤを並べてアレイ素子としたSNSPDアレイの研究が活発になされている。SNSPDは光子を検出すると超伝導状態が壊れるため、光子を検出できるようになるには冷却によって再度超電導状態に回復する必要がある。そのため、単一のワイヤでは超伝導状態に戻るまでの間、光子が検出できない。アレイとして複数の素子を並べることによって、一つのワイヤが常伝導状態になっていたとしても、その他のワイヤが超伝導状態にあるため、SNSPDアレイは単一ワイヤのSNSPDよりもより高速な光子検出が可能となる。
このSNSPDアレイはSNSPD自体の研究として興味深いだけでなく、2023年3月に中国USTCを中心としたグループのQKD実験に用いられ、その高速性によって100 Mbpsを超える秘密鍵生成率を達成している [W. Li, L. Zhang, et al., Nature Photonics, 17, 416 (2023)]。これまでの10~30 Mbpsの記録を大幅に更新しており、QKDの実用化の観点で大きな進展が期待され、ブレイクスルーとなる技術と言ってよいだろう。また、QKD以外の光子を用いた計測、分光、あるいはその他の素粒子物理学などの分野での活躍も期待できると考える。
これらの理由から、SNSPD、特にSNSPDアレイ技術を注目の科学技術として推薦する。
キーワード
量子通信 / 量子鍵配送 / 超伝導 / 光子検出 / 高速化
ID | 2023_E533 |
---|---|
調査回 | 2023 |
注目/兆し | 注目 |
所属機関 | 企業 |
専門分野 | 情報通信 |
専門度 | 高 |
実現時期 | 5年未満 |
分析データ 推定科研費審査区分(中区分) | 21 (電気電子工学) |
分析データ クラスタ | 38 (計算機・電気通信・通信デバイス・量子計算機) |
研究段階
単一ワイヤのSNSPDは市場でも販売されているが、SNSPDアレイはまだ実験室段階であると言える。ただし、上記にも述べた通り、装置そのものの研究だけでなく、既にQKD応用などの研究も実施されている。
一方で、SNSPDがどのような原理で光子を検出しているかは有力な候補があるものの、完全に確立した理論はまだ知られておらず、超伝導素子自体の研究も重要である。
一方で、SNSPDがどのような原理で光子を検出しているかは有力な候補があるものの、完全に確立した理論はまだ知られておらず、超伝導素子自体の研究も重要である。
インパクト
上記に述べた通り、QKDや量子インターネットといった量子通信技術において重要な技術であり、量子情報技術を確立する上で不可欠であり、その性能を根本的に向上させることが可能である。また、光子計測は細胞や薬品の分光から、カミオカンデなどの素粒子物理学実験など幅広い分野で用いられる基礎技術であり、装置のコンパクト化などが出来ればこれまで以上の波及効果があると考えられる。
必要な要素
超伝導を用いる為、原則として希釈冷凍機が必要となり、ある程度大掛かりになることは現状避けられない。また、光電子増倍管やアバランシェフォトダイオードなどと比べて、一般に非常に高価である。ただし、製造会社が非常に限られることや歩留まりの悪さなども考えられるため、SNSPDの認知度の向上/需要の拡大があればある程度の改善が見込まれると考えられる。
また、国内で生産している会社が存在しないこと、よく知られたメーカーの一つがロシアにあり現在の輸出入の規制などにより入手が難しいことなど、国内での製造ノウハウの確立は応用面で重要な課題であると言える。
また、国内で生産している会社が存在しないこと、よく知られたメーカーの一つがロシアにあり現在の輸出入の規制などにより入手が難しいことなど、国内での製造ノウハウの確立は応用面で重要な課題であると言える。