NISTEP注目科学技術 - 2023_E518
概要
近年、量子情報が注目を集めているが、量子コンピュータや量子暗号への応用といった技術的なブレイクスルーのみならず、量子情報の概念を使って広く物理学の基礎理論を革新するという波及効果が期待されている。
たとえば、量子多体系の熱平衡化や非平衡ダイナミクスに関連して、情報スクランブリング(information scrambling)という概念が注目を集めている。これは元々は高エネルギー物理学(弦理論)の分野で提唱された概念で、ブラックホールにおいては宇宙で最も速い熱平衡化が起こるという仮説に端を発している。熱平衡化とは量子情報のカオス化(scrambling)であるという観点から、量子回路の複雑性(gate complexity)やユニタリデザイン(unitary design)といった量子情報理論の概念を用いた研究が盛んに行われている。そのような速い熱平衡化の特性は、ブラックホールのような特殊な対象だけでなく、量子臨界点近傍の非フェルミ液体など、実験でもアクセス可能な物性物理との関連が指摘されている。このように、量子情報を共通言語として、弦理論から物性物理までを横断する形で、理論物理の新しい概念が生まれつつある。
量子情報を用いた熱力学の研究の流れとして、熱力学リソース理論(thermodynamic resource theory)も注目されている。リソース理論とは、もともとはエンタングルメントなど有用な量子情報の「リソース」を特徴づける理論であったが、それを用いて熱力学を情報理論的に再定式化しようという試みがなされている。
技術的な観点からは、超伝導量子ビットや冷却原子気体など、量子コンピュータのプラットフォームとなるような量子多体系の制御技術が、上記のような物理の基本原理を明らかにする研究に活用されることが期待できる。基礎物理の問題を、量子コンピュータなどを用いて研究することは、デジタル量子回路だけでなく、アナログ量子シミュレーションの観点からも重要な課題だと考えられる。とくにアナログ量子シミュレーションはNISQデバイスによる実現可能性が高いため、近い将来の実現が期待される。
たとえば、量子多体系の熱平衡化や非平衡ダイナミクスに関連して、情報スクランブリング(information scrambling)という概念が注目を集めている。これは元々は高エネルギー物理学(弦理論)の分野で提唱された概念で、ブラックホールにおいては宇宙で最も速い熱平衡化が起こるという仮説に端を発している。熱平衡化とは量子情報のカオス化(scrambling)であるという観点から、量子回路の複雑性(gate complexity)やユニタリデザイン(unitary design)といった量子情報理論の概念を用いた研究が盛んに行われている。そのような速い熱平衡化の特性は、ブラックホールのような特殊な対象だけでなく、量子臨界点近傍の非フェルミ液体など、実験でもアクセス可能な物性物理との関連が指摘されている。このように、量子情報を共通言語として、弦理論から物性物理までを横断する形で、理論物理の新しい概念が生まれつつある。
量子情報を用いた熱力学の研究の流れとして、熱力学リソース理論(thermodynamic resource theory)も注目されている。リソース理論とは、もともとはエンタングルメントなど有用な量子情報の「リソース」を特徴づける理論であったが、それを用いて熱力学を情報理論的に再定式化しようという試みがなされている。
技術的な観点からは、超伝導量子ビットや冷却原子気体など、量子コンピュータのプラットフォームとなるような量子多体系の制御技術が、上記のような物理の基本原理を明らかにする研究に活用されることが期待できる。基礎物理の問題を、量子コンピュータなどを用いて研究することは、デジタル量子回路だけでなく、アナログ量子シミュレーションの観点からも重要な課題だと考えられる。とくにアナログ量子シミュレーションはNISQデバイスによる実現可能性が高いため、近い将来の実現が期待される。
キーワード
量子情報理論 / 量子コンピュータ / 量子シミュレーション
ID | 2023_E518 |
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調査回 | 2023 |
注目/兆し | 注目 |
所属機関 | 大学 |
専門分野 | ナノテクノロジー・材料 |
専門度 | 高 |
実現時期 | 5年以降10年未満 |
分析データ 推定科研費審査区分(中区分) | 13 (物性物理学) |
分析データ クラスタ | 1 (データサイエンス/情報数学・離散数学・数値計算) |
研究段階
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インパクト
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必要な要素
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