NISTEP注目科学技術 - 2023_E514
概要
複数の分子反応を統合して機能性分子システムを構築する「分子ロボティクス」の実現が期待される。そこではロボットの三大機能要件であるセンシング、プロセシング、アクチュエーションがすべて分子反応で実装され、統合システムとして「外界から情報を取得して処理し、応答する」一連の動作を自律的に実行する。分子ロボティクスは分子の自己会合、自己組織化を活用した科学技術であるが、塩基配列特異的に分子どうしが結合して二本鎖を形成するDNAを中核要素とすることにより、相互作用関係を配列によって任意に設計し、システムの動作をプログミングすることが可能である。
分子を構成要素として、分子反応で動作するという点で生物との類似性が高く、従来のメカロトロニクスによるロボティクスでは実現が困難な微小性、省エネルギー性、液中動作能力、並列性、環境調和性、生体親和性などの実現が期待される。一方で従来の技術よりも高度な生体プロセスや遺伝プロセスへの介入を可能にし得ることから、その発展において社会との倫理的な対話が不可欠であり、人文・社会科学研究者らと協働した取り組みがすでに始まっている。
分子ロボティクスというコンセプトの提唱や大型プロジェクトの実施、倫理的取り組みの実践などにおいてこれまで日本が先行してきたが、国際的に市場規模予測などがされ始めた現段階において、科学技術政策による支援や産業界への導出に向けた動きは諸外国と比べて鈍く、今後は後塵を拝することが危惧される。
分子を構成要素として、分子反応で動作するという点で生物との類似性が高く、従来のメカロトロニクスによるロボティクスでは実現が困難な微小性、省エネルギー性、液中動作能力、並列性、環境調和性、生体親和性などの実現が期待される。一方で従来の技術よりも高度な生体プロセスや遺伝プロセスへの介入を可能にし得ることから、その発展において社会との倫理的な対話が不可欠であり、人文・社会科学研究者らと協働した取り組みがすでに始まっている。
分子ロボティクスというコンセプトの提唱や大型プロジェクトの実施、倫理的取り組みの実践などにおいてこれまで日本が先行してきたが、国際的に市場規模予測などがされ始めた現段階において、科学技術政策による支援や産業界への導出に向けた動きは諸外国と比べて鈍く、今後は後塵を拝することが危惧される。
キーワード
分子ロボティクス / DNAコンピューティング / DNAナノテクノロジー / 化学AI / 自己組織化
ID | 2023_E514 |
---|---|
調査回 | 2023 |
注目/兆し | 注目 |
所属機関 | 公的機関 |
専門分野 | ライフサイエンス |
専門度 | 高 |
実現時期 | 5年以降10年未満 |
分析データ 推定科研費審査区分(中区分) | 90 (人間医工学) |
分析データ クラスタ | 46 (データサイエンス/機械学習・AI) |
研究段階
分子ロボティクスはプロトタイプとなるような現象や動作の実証よりも先にコンセプトが提唱され、技術開発ロードマップが作成されて実際の研究開発が進められてきている。システムの機能要件のうち、センシングとアクチュエーションの分子反応による実装については化学分野で知見の蓄積があるが、分子ロボティクスの中核であるプロセシングの実装については、分子レベルではなく分子システムのレベルで新たな原理・現象の発見や学理を確立するブレークスルーが必要であり、現在は研究室で開発が進められている段階である。
ただし、その要素技術についてはナノテクノロジーや薬物送達技術(DDS)、バイオテクノロジー、医療等に応用できるものが多く、現段階においても特に海外において企業との共同研究が進んでいる段階である。
ただし、その要素技術についてはナノテクノロジーや薬物送達技術(DDS)、バイオテクノロジー、医療等に応用できるものが多く、現段階においても特に海外において企業との共同研究が進んでいる段階である。
インパクト
分子ロボティクスは、人工物を創出する加工プロセスに分子の自己組織化能力を活用するもので、従来の「人間が素材を加工して目的のモノを作る」プロセスとは一線を画す、「素材に情報を与えて素材が自ら目的のモノになる」革新的なプロセスを実現する科学技術である。化学産業、バイオ産業と並び立つ分子システム産業の創成が期待されるとともに、既存産業における製法の改変や環境負荷の低減に貢献し、産業競争力の向上や、高度なものつくり人材の雇用を創出する。その発展の過程では、基礎科学から応用に至るまで広範囲に新規な知が創出されるとともに、生物と類似点の多い自律動作する人工物を創出するという特徴から、自然科学のみならず人文・社会科学における知の創出と社会技術の発展も促進する。
また、分子ロボティクスは従来技術では達成が不可能な素材機能、ロボット機能などを生み出し、特に医療や農業生産、食品加工、化粧品などバイオテクノロジーが関連する製品機能や製造工程を革新して、人々の健康でより質の高い暮らしに貢献する。さらに、環境調和性や省エネルギー性、生体親和性が高い技術であることから、環境・エネルギー・資源・生態系破壊などの問題を解決するほか、危険で大掛かりな製造設備は不要であるため、一部企業が製造を寡占する産業構造を回避し、地産地消による地域への貢献、安全保障の確立や国際的な経済格差の解消に貢献する可能性が期待される。
また、分子ロボティクスは従来技術では達成が不可能な素材機能、ロボット機能などを生み出し、特に医療や農業生産、食品加工、化粧品などバイオテクノロジーが関連する製品機能や製造工程を革新して、人々の健康でより質の高い暮らしに貢献する。さらに、環境調和性や省エネルギー性、生体親和性が高い技術であることから、環境・エネルギー・資源・生態系破壊などの問題を解決するほか、危険で大掛かりな製造設備は不要であるため、一部企業が製造を寡占する産業構造を回避し、地産地消による地域への貢献、安全保障の確立や国際的な経済格差の解消に貢献する可能性が期待される。
必要な要素
分子ロボティクスはその中核であるプロセシング機能を実装する学理・技術の確立がまだ不十分である。もっとも関連の深いDNAコンピューティング研究において、日本はその初期から研究が行われている国の一つではあるが、生体分子化学、生物物理学、情報科学、システム科学などの緊密な分野間連携が必要な当該分野において、学術界・産業界ともに参入する人材が不足している。ブレークスルーとなる技術を生み出せれば、学術・社会・経済へ大きなインパクトをもたらす分子ロボティクスを国際的に牽引できることから、科学技術政策の面でも支援が必要である。
分子ロボティクスは、分子を構成要素として生物と類似点の多い機能性システムを創製する。将来的には電子技術とも融合し、人間よりも多くの面で高機能かつ生体に介入し得る、自律動作するシステムを創出すると予想される。応用段階になってから技術的なリスクアセスメントを行うのでは不十分で、技術開発の初期段階から社会との対話を繰り返して信頼関係を構築し、ELSI(倫理的・法的・社会的課題)について多様なステークホルダーとともに検討を行い、目指すべき社会像を広く共有しながら研究開発を推進する必要がある。
分子ロボティクスは、分子を構成要素として生物と類似点の多い機能性システムを創製する。将来的には電子技術とも融合し、人間よりも多くの面で高機能かつ生体に介入し得る、自律動作するシステムを創出すると予想される。応用段階になってから技術的なリスクアセスメントを行うのでは不十分で、技術開発の初期段階から社会との対話を繰り返して信頼関係を構築し、ELSI(倫理的・法的・社会的課題)について多様なステークホルダーとともに検討を行い、目指すべき社会像を広く共有しながら研究開発を推進する必要がある。