NISTEP注目科学技術 - 2023_E498
概要
広範な応用分野で活用される数値シミュレーション技術の中でも、ものづくりと直結した分野に絞ると、IoTによる大量のばらつきを含む計測データと連携した、バーチャルマニュファクチャリングが急速に進展し、これまでの確定論的なシミュレーションではなく、ばらつきや不確かさ(不確定性)を考慮できる確率的シミュレーションの技術進展と応用が進み、企業におけるCAE(computer aided engineering)にまで浸透することが期待される。特に、新しい製造方法の一つであるアディティブマニュファクチャリング、あるいは3Dプリンティング・3D積層造形の普及にともない、バーチャルマニュファクチャリングの進展が加速すると期待される一方、初期欠陥やばらつき、製品の品質保証のため、確率的シミュレーションの必要性、重要性の認識が広がることが予想される。土木分野でも、無限に考えることができる様々なシナリオに対する大規模シミュレーションにより、防災・減災に貢献することが期待される。現状において、普及型の市販CAEソフトウェアで確率的シミュレーションが可能なものは皆無といっても過言ではないが、ごく最近アメリカからSmartUQという名称のソフトが市販化された。今後は同様なツールも多く開発されると予想される。また、富岳による超大規模シミュレーション能力をいかした確率的シミュレーション技術も発展して、企業にまでその効果が波及すると期待される。別途、バイオ分野においても、患者の個体差を考慮した確率的シミュレーションは、バイオメカニクスや創薬のシミュレーションを一段と発展させる可能性を秘めているものと期待される。
キーワード
確率的シミュレーション / バーチャルマニュファクチャリング / ばらつき・不確かさ(不確定性) / 防災・減災のための土木シミュレーション / 患者の個体差を考慮した医歯薬・バイオシミュレーション
ID | 2023_E498 |
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調査回 | 2023 |
注目/兆し | 注目 |
所属機関 | 大学 |
専門分野 | ものづくり |
専門度 | 高 |
実現時期 | 5年以降10年未満 |
分析データ 推定科研費審査区分(中区分) | 7 (経済学、経営学) |
分析データ クラスタ | 46 (データサイエンス/機械学習・AI) |
研究段階
確率的シミュレーションを実現する数値解析技術はすでにいくつかあり、線形問題に対しては研究室および学会の研究会レベルで調査検討が進んでいるが、非線形問題に対しては課題点の抽出を進め、解決をはかる必要がある。我が国のものづくり企業においては認知度が非常に低く、これからの研究の進展と啓蒙が期待される。一方、米国より市販ソフトSmartUQが発売されたことから、今後は競合ソフトの開発が進むなど、急速な発展をとげることも十分に予想される。応用分野がものづくり、土木(防災・減災)、医歯薬(患者の個体差)と広範であるため、分野ごとに閉じた議論をするのではなく、計算力学という横ぐしで刺した議論による技術進展が必要と思われる。なお、ここでの確率的シミュレーションはあくまで数学的・数理的なアプローチを想定しており、深層学習や人工知能の応用による確率論的アプローチは含んでいない。確率的シミュレーションは、なぜばらつきを生じるのかといった分析とリスク評価に直結するものを想定している。
インパクト
製造分野の新しい技術開発、土木(防災・減災)、医歯薬の各分野ともに、確定論的な議論ですむことは少なく、ばらつきや不確かさをともない、確率論的な議論が有効だとの認識が広まれば、現在の確定論的シミュレーション技術を一新できるほどの価値は秘めていると考える。あるいは、確率的シミュレーションは従来の確定論的シミュレーションを包含するものであり、取って代わるというより、発展形の一つといえる。リスク分析やリスク評価のレベルがあがり、想定外を無くすといった点では、間接的に個人・社会の安全・安心に寄与するものである。バーチャルマニュファクチャリングに応用した場合は、短絡的にはデジタルツインの実現に必須であるし、結果として産業競争力の向上に寄与する。
必要な要素
応用分野が多岐にわたるが、実現に向けた数学的・数理的な手法論の開発と応用は、ものづくり・土木・医歯薬といった分野をまたいで議論、開発を進めることが望ましく、きわめて困難なこととはいえるが、異分野を繋いだコミュニティ形成が望ましい。また、ものづくりに絞れば、産業界との連携により応用面・実利面でのキーポイントとなる数理モデリング技術の形成も同時に進めるように、国プロや学協会レベルで組織的な大規模なコミュニティ形成をはかることが望ましい。