NISTEP注目科学技術 - 2023_E485

概要
 単細胞真核生物である原生生物はこれまで、動物、植物、菌類と大きく異なり、取るに足らない生物であるという扱いを受けてきた。しかしながら環境で原生生物は大きなバイオマスをもち、されにバクテリアなどのより小さな生物の捕食者、かつ魚などのより大きな生物の餌としてエネルギーループに重要な役割を果たしていることが分かってきている。また、様々な生物の遺伝子情報が蓄積され、それに基づいた生物の再分類がなされた結果、真核生物の多様性は原生生物によって担われていることが分かってきた。このような遺伝的多様性を持つ原生生物は激動する環境中で10億年以上に渡り生き抜いており、個々の原生生物は様々な生存戦略を駆使して外環境に応じた適切な行動を行っていると考えられる。このような行動能力は精子の遊泳や発生時における細胞の移動、傷の修復などにおける多細胞生物での単細胞性行動にも引き継がれていると考えられる。近年、このような環境適応能力を実験的に探索し、さらに細胞運動と環境を連成した動力学方程式により定式化することで、運動方程式としてこのアルゴリズムを抽出するという試みがなされている。このような研究は長い歴史を持つ原生生物の行動研究とは大きく異なり、あえて複雑な細胞外環境において行動研究をおこなうことで本来原生生物が日頃用いている生きるための潜在能力をアルゴリズムとして取り出すことを目的としている。原生生物は私たちヒトと同じ真核生物であるが、その生存戦略は私たちヒトでは到底思いつかないような方法であることが多い。このようにして原生生物の能力がひとたび微分方程式として抽出出来れば、計算機上でそのアルゴリズムを利用することが可能となり近い将来私たちが直面する様々な問題に応用可能であると考えられる。例えば、環境予測を通じて赤潮、貝毒などによる水産業への影響を軽減することで水産業へ貢献したり、巡回セールスマン問題などの身近な組合せ最適化問題への新しい解法を提案したり、精子の行動に着目した不妊治療や効率的人工授精法による畜産物の供給、高効率バイオリアクタの設計による産業分野への貢献、いまだ特効薬のないマラリア原虫やトリパノソーマといった感染性原生生物への対策など、様々な分野への応用が期待される。このような理由により原生生物の行動アルゴリズム解明という分野は今後多くの他分野に貢献する注目の科学技術と考えられる。
キーワード
原生生物 / 行動アルゴリズム / 微分方程式 / 地球環境 / 生物多様性
ID 2023_E485
調査回 2023
注目/兆し 注目
所属機関 大学
専門分野 ライフサイエンス
専門度
実現時期 10年以降
分析データ 推定科研費審査区分(中区分) 45 (個体レベルから集団レベルの生物学と人類学)
分析データ クラスタ 51 (生物生態・多様性)
研究段階
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インパクト
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必要な要素
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