NISTEP注目科学技術 - 2023_E453
概要
作付面積を垂直方向に伸ばすことで土地利用効率を高くし、作物生産性を向上するVertical farming(垂直農業)に注目している。垂直農業は主に水耕栽培のシステムが利用されており、太陽光型植物工場や人工光型植物工場など作物の栽培環境が制御可能な設備に導入されることが多い。特に人工光型植物工場においては、施設内で作物を栽培する技術であることから、自然環境(洪水や干ばつ、気候変動、日射量不足など)の影響をあまり受けることなく安定して作物生産が可能であること、病害虫の侵入が少ないことから農薬を使用することなく野菜が生産可能であること、またビルの一室など非農耕地で作物が栽培可能であるため、食料消費の多い都市部への輸送費が削減できるなどのメリットがあげられる。日本においては主に人工光型植物工場が垂直農業を導入しているが、海外での研究や技術利用の拡大がより顕著である。また、水耕栽培に用いる培養液は循環利用可能であることから、葉菜類の栽培においては現行の栽培方法よりも水資源の利用量を約80~90%削減できるという試算がされるなど、作物生産に必要な水資源の省力化にも貢献できると期待されている。
現在、垂直農法により栽培された葉菜類やハーブ類などが市場に出回るなど技術が活用されている。作物の安定生産は葉菜類に限られるが室内でも栽培可能なことから、作物生産の場となる農地がない宇宙ステーションや長期滞在を想定した月面基地、火星などフロンティア開発におけるヒトへの食料供給を可能にできうる有力な技術の1つとして注目されている。一方で、果菜類やイモ類、穀類などの大規模な安定生産技術は研究段階であること、光熱費が従来法より必要であることなどの問題点も存在するため、今後の展望として、省エネ化と葉菜類以外の安定した栽培技術開発が望まれている。
現在、垂直農法により栽培された葉菜類やハーブ類などが市場に出回るなど技術が活用されている。作物の安定生産は葉菜類に限られるが室内でも栽培可能なことから、作物生産の場となる農地がない宇宙ステーションや長期滞在を想定した月面基地、火星などフロンティア開発におけるヒトへの食料供給を可能にできうる有力な技術の1つとして注目されている。一方で、果菜類やイモ類、穀類などの大規模な安定生産技術は研究段階であること、光熱費が従来法より必要であることなどの問題点も存在するため、今後の展望として、省エネ化と葉菜類以外の安定した栽培技術開発が望まれている。
キーワード
垂直農法 / 作物生産量向上 / 植物工場 / 無農薬栽培 / 省資源
ID | 2023_E453 |
---|---|
調査回 | 2023 |
注目/兆し | 注目 |
所属機関 | 公的機関 |
専門分野 | 環境 |
専門度 | 高 |
実現時期 | 5年以降10年未満 |
分析データ 推定科研費審査区分(中区分) | 41 (社会経済農学、農業工学) |
分析データ クラスタ | 50 (農業・森林) |
研究段階
葉菜類(主にリーフレタス)の栽培技術については、環境制御設備や大規模に安定して生産可能な栽培技術が確立されており、農地の少ない国(サウジアラビアやシンガポールなど)や作物の生産地と作物消費の多い都市部が離れているアメリカなどで研究開発や技術利用が進んでいる。日本における研究開発については、産学官が連携し研究開発が行われることが多く、自動化栽培、イチゴの栽培技術や霧を利用したエアロポニックによる栽培技術の開発、作物を栽培するためのLEDの開発が企業や大学などから発表されるなど研究が進められている。また、宇宙ステーションでの微小重力下における野菜栽培に関する研究も産学官協力のもと取り組まれている。
太陽光型植物工場においては、トマトやキュウリ、イチゴなどの果菜類を対象に栽培している施設の環境状態のセンシングと環境制御による収量向上を目指した研究や現地実証試験が進められてる。
太陽光型植物工場においては、トマトやキュウリ、イチゴなどの果菜類を対象に栽培している施設の環境状態のセンシングと環境制御による収量向上を目指した研究や現地実証試験が進められてる。
インパクト
葉菜類、果菜類、穀類、イモ類などの安定した生産技術が開発されれば、アルテミス計画に関する月面での長期居留実現やその先の目標である火星探査、南極基地などに駐留する隊員に対して新鮮な食糧を供給できるなど、作物の栽培が難しい場所での食料供給に貢献できる技術になると考えられた。宇宙での安定した食料供給が可能になれば、微小重力下での新規医薬品や新規有用素材の研究開発に携わる研究員に対して、食を通した幸福度向上に貢献できると考えられた。また、地上においては、地球規模の人口増加に伴う食料危機問題解決に向けた食料生産技術の1つになるだけではなく、環境変動による作物の安定供給への影響が懸念される中、ある一定量を安定して供給できるようになる可能性がある。
さらに健康面から考察すると環境を任意に制御可能なことから機能性成分や医薬品の原料となる有用成分を高蓄積する作物の生産にもつながると考えられた。また、化学農薬未使用で作物を栽培可能なことから、消費者の食に対する安心に貢献できると考えられた。
さらに健康面から考察すると環境を任意に制御可能なことから機能性成分や医薬品の原料となる有用成分を高蓄積する作物の生産にもつながると考えられた。また、化学農薬未使用で作物を栽培可能なことから、消費者の食に対する安心に貢献できると考えられた。
必要な要素
垂直農業は環境制御装置を用いて施設内の栽培環境を制御する必要があることから、電力消費量やイニシャルコストが普及する際に問題となる。さらに、化学農薬や化学肥料の減量(もしくは不使用)、省資源での栽培、二酸化炭素排出量を低減しての作物生産が社会から求められているため、社会情勢に沿った技術を開発し普及することが必要になると予想された。そのため、環境制御装置の省エネ化や地熱、風力など地域の環境の特徴にあった自然エネルギーの利用技術の開発や利用が必要になると考えられる。安定した栽培技術の開発においては、施設内での栽培に適した品種の選定や品種育成が必要になることや、現在の研究解析手法に加えて、環境条件に対する各作物の遺伝子発現やタンパク質の機能解析など分子生物学的な視点からも作物の生育を研究することで、まだ栽培技術が確立されていない作物の生産技術の開発が加速できると期待される。