NISTEP注目科学技術 - 2023_E449

概要
呼気バイオプシー技術(Exhaled Breath Biopsy)について着目している。これは、非侵襲的な方法で人体からの呼気を収集し、その中に含まれるバイオマーカーを分析する技術である。この技術は、身体の状態や疾患の診断、治療効果のモニタリング、疾患の予後評価などに応用されることが期待されている。

呼気中には、肺や呼吸器系から放出される物質が含まれており、これらは代謝産物や炎症マーカーなど、身体の健康状態に関する情報を提供する可能性がある。呼気バイオプシー技術では、特殊な装置やセンサーを使用して、呼気中のこれらの成分を収集し、分析する。

具体的な手順としては、まず患者は通常の呼吸を行いながら、呼気を特殊な装置に吹き込む。装置は呼気中の微粒子や化合物を捕集し、それらを分析するためのサンプルを生成する。生成されたサンプルは、ガスクロマトグラフィーや質量分析法などの技術を用いて、バイオマーカーのプロファイルを詳細に調べることができる。

呼気バイオプシー技術は、肺癌の診断や監視において特に注目されている。肺癌患者の呼気中には、がん細胞由来の物質やがん関連の変化が検出される可能性がある。また、他の呼吸器系疾患や代謝性疾患においても、呼気中のバイオマーカーの変化が観察されることがある。

ただし、呼気バイオプシー技術はまだ研究段階であり、臨床的に確立された診断法や治療法としては広く利用されていない。さらなる研究や技術の発展が必要とされている。また、特定の疾患の診断や治療において、他の従来の方法との比較や組み合わせが必要となる場合もある。
キーワード
呼気ガス / 代謝産物 / 炎症 / 質量分析
ID 2023_E449
調査回 2023
注目/兆し 注目
所属機関 大学
専門分野 ライフサイエンス
専門度
実現時期 5年以降10年未満
分析データ 推定科研費審査区分(中区分) 59 (スポーツ科学、体育、健康科学)
分析データ クラスタ 6 (分子生物学/診断・治療)
研究段階
当研究室において積極的に開発を行っているが、近年の、世界規模で技術開発の競争が加熱している状況と言える。
インパクト
呼気バイオプシーは、医学的なさまざまな応用の可能性を秘めている。以下に、いくつかの医学的応用例を示す。

がんの診断とスクリーニング: 呼気中のバイオマーカーの変化を検出することにより、肺癌や他のがんの早期診断やスクリーニングに役立つ可能性がある。がん細胞由来の物質やがん関連の変化が、呼気中に検出されることがある。

疾患のモニタリングと治療効果の評価: 呼気バイオプシーは、特定の疾患の進行状況や治療効果を非侵襲的にモニタリングするために使用できる。呼気中のバイオマーカーの変化は、疾患の進行や治療反応の指標となる場合がある。

呼吸器疾患の診断と管理: 呼気バイオプシーは、喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの呼吸器疾患の診断と管理に役立つ可能性がある。呼気中の炎症マーカーや気道の状態を反映するバイオマーカーの変化が観察されることがある。

代謝性疾患の評価: 呼気中の代謝産物のプロファイルを分析することにより、糖尿病や肥満などの代謝性疾患の評価に役立つ可能性がある。呼気中のバイオマーカーは、代謝の状態や糖代謝の変化を示す場合がある。

感染症の診断と追跡: 呼気中の微生物の遺伝子や代謝産物を分析することにより、感染症の診断と追跡に貢献する可能性がある。特定の病原体や感染症に関連するバイオマーカーが、呼気中に検出されることがある。

これらは一部の例であり、呼気バイオプシーの医学的応用はさらなる研究と開発が必要とされている。
必要な要素
呼気バイオプシーの応用を進めるにあたり、以下の点が今後の研究や開発で重要とされている。

バイオマーカーの特定と検証: 呼気中のバイオマーカーの特定とその疾患との関連性を明確にするために、さらなる研究が必要である。特定の疾患に関連する信頼性の高いバイオマーカーを特定し、それらが疾患の診断やモニタリングにどのように役立つかを検証する必要がある。

標準化されたサンプリングプロトコルの確立: 呼気バイオプシーの結果の再現性と信頼性を向上させるために、標準化されたサンプリングプロトコルの確立が必要である。サンプリング方法や装置の選択、収集条件などの統一化が重要である。

分析技術の改善と高感度化: 呼気中の微量のバイオマーカーを正確に検出するために、分析技術の改善と高感度化が求められる。感度の高い分析手法や新たな技術の開発により、より精確な結果が得られるようになるだろう。

大規模な臨床研究と検証: 呼気バイオプシーの応用を臨床現場で確立するためには、大規模な臨床研究と検証が必要である。特定の疾患や治療効果の評価において、他の従来の診断法やモニタリング手法との比較や組み合わせ研究が行われることが重要である。

倫理的考慮と規制: 呼気バイオプシーに関連する倫理的な考慮事項やデータの保護についても注意が必要である。患者のプライバシー保護やデータの適切な管理が確保されるようにするため、規制やガイドラインの策定も重要である。