NISTEP注目科学技術 - 2023_E438
概要
がん免疫細胞療法の一つにキメラ抗原受容体(chimeric antigen receptor: CAR)を遺伝子導入したT細胞療法(以下CAR-T細胞療法)がある。CAR-T細胞療法は白血病などの血液がんに対して、寛解率90%という著明な臨床効果を発揮するが、がんの大部分を占める固形がんに対しては効果が乏しい。それは、固形がんはがん細胞が血管の外に塊としてあるため十分なCAR-T細胞がたどり着くのが難しいという「がん細胞へのアクセス」の問題と、固形がんでは一部のがん細胞が標的を持っていないためCAR-T細胞が検出できないという「がん細胞が持つ標的」の問題があるためである。これに対して「PRIME技術(Proliferation Inducing and Migration Enhancin g Technology )」はケモカインCCL19とサイトカインIL-7を同時に産生する新規技術である。この技術をCAR-T細胞に搭載することで、がん組織にて周囲のPRIME CAR-T細胞に加え体内の免疫細胞も集積させ、さらにPRIME CAR-T細胞と体内の免疫細胞両方の活性を高めることが可能となる。
キーワード
細胞療法 / がん免疫療法 / アンメット・メディカル・ニーズ
| ID | 2023_E438 |
|---|---|
| 調査回 | 2023 |
| 注目/兆し | 注目 |
| 所属機関 | 大学 |
| 専門分野 | ライフサイエンス |
| 専門度 | 高 |
| 実現時期 | 5年未満 |
| 分析データ 推定科研費審査区分(中区分) | 50 (腫瘍学) |
| 分析データ クラスタ | 57 (腫瘍学/臨床・治療法) |
研究段階
PRIME技術に関するコア特許及び周辺特許は特許取得され、海外特許についても申請・取得が進められている。本技術の実用化を目指して設立された大学発ベンチャー企業は複数のパイプラインを創出し、2023年1月時点では国内外で5社の製薬メーカーと契約済みである。3件の人に対する臨床治験が進行している。
インパクト
従来の抗がん剤治療は「毒をもってがんを制する」というアプローチであり、その副作用は極めて厳しいものがある。また、ほとんどの症例で薬剤耐性株が出現するため、抗がん剤の種類を切り替えながら長期間の多剤併用療法を継続する必要がある。一方で、患者自身の免疫力増強作用を持つPRIME CAR-T細胞は元来生体が有している免疫力を利用するため、治療に伴うQOLの低下が少ないことが期待される。また、PRIME CAR-T細胞はがんに対する記憶を獲得できる実験結果がモデルマウスで示されたため、一度効果が得られれば効果が長期間持続する、再発予防の効果が期待される。これらのことから、PRIME技術は高い奏効性とQOLを可能とする難治性がん治療を実現することが期待できる。
必要な要素
PRIME CAR-T細胞療法は患者由来の細胞を用いて作製される、自家細胞療法の先行して開発が進められているが、細胞製造の低コスト化のためには健常者由来の他家細胞療法開発や、細胞製造の自動化が求められる。