NISTEP注目科学技術 - 2023_E428
概要
日本は地震多発国であり,高精度な地震動予測技術の開発は重要である。どれほどシミュレーションによる計算技術が発達しても,局所性の高い地盤増幅を評価するには,経験的な方法に頼らざるを得ない。これまでに経験的な地震動評価方法が数多く提案されているが,使用しているデータベースは,研究者が個別に収集したものを使用しており,研究者間でデータを共有することは難しかった。最近,防災科学技術研究所が,日本で観測された地震動データおよび震源に関するデータベースを構築しており,多くの研究者が使えるよう広く公開されている。一方で,AI技術に代表されるようなデータ駆動科学も発達しており,これまでの経験式では求めることが難しかった高度な地震動予測式を構築することが可能となっている。今後は,これらのデータベースを基に,ニューラルネットワークのようなデータ駆動科学を適用することにより,より高精度な地震動予測が可能になることが期待される。特に局所性の強い地盤増幅については,普段の地盤の揺れである微動と関連が強いことが指摘されている。これまでに多くの研究者や実務者が全国多数の地点で微動観測を実施している。このような微動データを共有・使用することができれば,さらに高精度かつきめ細かい地震動予測が可能になるものと考えられる。
キーワード
データ駆動科学 / 人工知能技術 / ビッグデータ / 地震動予測
| ID | 2023_E428 |
|---|---|
| 調査回 | 2023 |
| 注目/兆し | 注目 |
| 所属機関 | 大学 |
| 専門分野 | 社会基盤 |
| 専門度 | 高 |
| 実現時期 | 5年未満 |
| 分析データ 推定科研費審査区分(中区分) | 17 (地球惑星科学) |
| 分析データ クラスタ | 2 (マシンインテリジェンス/センシング・データサイエンス) |
研究段階
上述の防災科学技術研究所が公開している地震動データベースを用いた地震動予測モデルの開発については,これまでに複数の研究者が研究成果を発表している。しかし,このデータベースには,地盤に関する情報は少なく,特に地震動予測に重要な周波数ごとの地盤の情報が含まれていない。一方で,簡便に地盤や地震波の地盤増幅に関する情報を収集するには,微動データの観測が有用であることが指摘されている。これまでに多くの研究者が多数の地点で微動観測を実施しているが,これらのデータは地震動予測モデルには使用されていない。これは微動データの特徴が,地盤の増幅そのものを表しているわけではないためであるが,近年のAI技術の発達により,微動データを地盤増幅の代替として使用できることが明らかになっている。これらのデータベースと最新の知見を組み合わせることにより,周波数ごとの地震動強さを精度良く予測することが可能になることが期待される。技術的にはすでに開発されているものを使用するため,実現性の高い研究であると考えられる。
インパクト
これまでの地震動予測結果は,全国レベルあるいは市町村レベルでの地震動強さを予測/評価するものであり,対象とするピンポイントの地点の高精度な予測は難しかった。上記の技術が開発されれば,微動データさえ取得すれば,当該地点での高精度な地震動予測が可能になることが期待される。この技術が一般化されれば,構造物の耐震安全評価,住宅地の安全性評価,地震ハザードマップの高度化が期待され,これらを事業者や住民に対するサービスとして事業化することができれば,新たな事業の創出につながるものと考えられる。
必要な要素
地震動予測を専門とする研究者の多くは,最近の人工知能技術については馴染みが薄いこと,物理的根拠がやや薄いこと,などの理由から,データ駆動科学によるモデル化技術については他の分野に比べてもやや進展が遅いように思われる。想定外(データの外挿)となるような大地震・大振幅の地震動の予測については注意が必要であるが,内挿問題についてはAI技術は他の技術に比べても高精度であることが明らかであるので,より多くの研究者の参入と議論が必要であると考えられる。