NISTEP注目科学技術 - 2023_E414
概要
注目の科学技術として、立体構造認識モノクローナル抗体 (ssmAb) を効率的に作製できる立体構造特異的ターゲッティング (stereospecific targeting: SST) 法を紹介したい。この方法は、全く新しいハイブリドーマテクノロジーである。SST 法は、3つの主要ステップから成る。①DNA免疫法と細胞免疫法を利用して、マウスB細胞を感作する。②目的抗原を細胞膜上に発現するミエローマ細胞を用いて、感作B細胞を選択する。③B細胞とミエローマ細胞複合体に対して電気パルスを負荷して選択融合し、目的の立体構造特異的モノクローナル抗体産生ハイブリドーマを効率的に作製する技術である。①では、立体構造を保持した状態で目的抗原を免疫動物内で発現させた後、免疫系が認識することによって、立体構造特異的抗体産生B細胞を選択的に感作する。②では、感作B細胞上のB細胞受容体(膜結合型抗体)を介して、立体構造保持抗原発現ミエローマ細胞を利用して抗原抗体反応に基づきB細胞を選択する。③では、B細胞-ミエローマ細胞複合体を電気パルスによって選択融合して、目的のssmAb 産生ハイブリドーマを効率的に作製する。電気パルス融合の特徴は、膜を接している細胞、すなわちB細胞-ミエローマ細胞複合体のみを選択融合できるため、高効率に ssmAb が取得できる。
キーワード
スーパータンパク質 / タンパク質工学 / 健康科学
ID | 2023_E414 |
---|---|
調査回 | 2023 |
注目/兆し | 注目 |
所属機関 | 大学 |
専門分野 | ライフサイエンス |
専門度 | 高 |
実現時期 | 5年未満 |
分析データ 推定科研費審査区分(中区分) | 49 (病理病態学、感染・免疫学) |
分析データ クラスタ | 5 (分子生物学/薬理学) |
研究段階
SST 法は、すでに完成段階に近づいている。その理由は、Cell-ELISA法、免疫蛍光染色法、ウェスタンブロッティング法、セルソーター解析、パラホルムアルデヒド処理によって、ssmAb の立体構造認識がすでに実証されているからである。現在はマウスを用いた研究であるため、今後の課題として、ヒト化抗体またはヒト抗体作製へと展開する必要がある。ヒト化抗体およびヒト抗体の作製は、例えば、遺伝子組換え技術およびトランスジェニックマウスを用いることによって、可能になる。それらの技術を利用すれば ssmAb のヒト疾病治療への応用が近い将来実現できる。
インパクト
近年、抗体医薬(分子標的治療薬)が世界の医療分野で幅広く利用されている。その理由は、特異性の高さから今までの薬剤では治療不可能な疾病への応用が期待できる。しかし、1つ大きな問題点がある。現在承認されている抗体医薬の多くは、目的抗原(タンパク質)の一次構造を認識していると推測される。生体内のすべての抗原は、独自の高次構造を保持しており、仮にその高次構造を特異的に認識する抗体医薬が開発されれば、格段の治療効果が期待できる。本技術は、今までとは全く異なる効果を有する抗体医薬を提供できる。今後、間違いなく次世代の抗体医薬として世界で認められる技術である。さらに、本技術で作製される ssmAb は、受容体のリガンド作用も有する可能性が高く、GPCR(Gタンパク質共役受容体)を代表とする各種受容体の作動薬または阻害薬としての応用も期待できる。
必要な要素
企業との共同研究が必須と考えられる。企業の中でも特に遺伝子組換え技術、トランスジェニックマウスを用いた抗体医薬の開発を行っている製薬メーカーとの連携が最も好ましい。