NISTEP注目科学技術 - 2023_E376

概要
農業における持続可能性の追求が加速されるものと考えられる。特に、ヨーロッパを中心に脱低分子農薬の動きが加速する。その代替として、天然化合物などを含むバイオスティミュラントや、植物免疫賦活剤、微生物農薬などの利用が進む。一方、これらの作用についての生理学的な分子機構の解明は世界的にも遅れており、天然化合物の生理活性や、生物間相互作用の分子機構の研究が広く進められるものと考える。特に、土壌中のマイクロバイオームと植物の生育状態との関係など、生態系と生物有機化学、生理学との境界分野に発展が見込まれる。また、社会的受容の状況によるが、新植物育種技術(NPBT)の実用化が進む。特に、地球温暖化に適応可能なストレス耐性を付与するための技術開発が進むと想定される。同時に、大規模ゲノム解析によって、低リン低窒素環境下でも優れた栽培特性を示す遺伝子座が明らかにな理、その利用が進む。フードロス削減と資源循環を達成するための、食物残渣の農業利用や、海洋生物による資源のトラップ・再利用がシステム化される。
キーワード
持続可能な農業体系の構築 / バイオスティミュラント / マイクロバイオーム / 新植物育種技術 / 資源循環
ID 2023_E376
調査回 2023
注目/兆し 注目
所属機関 大学
専門分野 ライフサイエンス
専門度
実現時期 5年未満
分析データ 推定科研費審査区分(中区分) 41 (社会経済農学、農業工学)
分析データ クラスタ 50 (農業・森林)
研究段階
バイオスティミュラントなどについては、現象は以前より明らかになっており、実用化もされている。一方、その分子機構は未解明のものが多い。研究室で研究を進めている段階であるが、国内では企業と大学が共同で研究を進めている事例がある。その他の現象についても、以前より知られていたことを、より詳細に原理も含めて解析することが行われている。また、ゲノム科学の急速な進展によって、生物間のみならず生態系におけるバイオーム解析が急速に進むと予想される。また、これまでに拡充されてきた作物資源の大規模ゲノム解析により、有用形質の付与に資する遺伝子機能の解明が進むと考えらえる。NPBT については、オルガネラレベルでのゲノム編集が可能になるなどの先端技術が確立された段階にあり、今後、実用化が期待できる。また、資源循環に向けて農工連携が進むと期待されるが、行政も含めた大規模な研究、実用化の体制が必要となると思われるが、具体的な動きはあまり見えていないように思われる。
インパクト
緑の革命以降の近代農業は、爆発的な人口増加を支える基盤となったものの、特にリンおよび窒素資源に関し持続可能でないという認識が時代の趨勢となった。この文脈の延長線上で、低分子農薬への忌避感が醸成されたと考えられるが、いずれにせよ、2050 年に向けて農業体系は大きな変革を迎えることが想定され、そのために持続可能な農業体系の構築が急務となっている。逆に、この体型が構築されれば、食料安全保障を担保しつつ、環境、資源、生態系の維持が可能な農業が実現する。一次産業は社会インフラの基盤をなすものであり、その体系が盤石となれば、その他の産業にもその効果が自ずから波及する。また、社会の安心の維持、地域社会への貢献、ライフスタイルの改善にも直結する。
必要な要素
持続可能性に極端に振れると食料価格の高騰や、減産など食料安全保障にとって負に働く懸念が生じる。政策も含めて、現行農業とのバランスを考慮しながら、総合的な対応策を講じる必要がある。また、分子機構が曖昧なまま天然化合物やバイオスティミュラントを使用した場合、思わぬ副作用が生じないとも限らないため、これらについても既存の農薬に求められていた安全性評価は必須と考える。