NISTEP注目科学技術 - 2023_E326
概要
近年,欧米を中心として人間社会と水循環の相互作用を扱う研究が盛んに行われるようになってきた.特に 2010年代に入りSivaparanらを中心に「社会水文学」(socio-hydrology)が提案されて以降(Sivapalan et al., 2012),人間活動と水循環の相互作用を中心課題として扱う研究が各国で進んでおり,学問としても体系化されつつある.
水文学は,「地球の水を扱う科学,その発生,循環,分布,その物理的および化学的特性,またそれら特性の人間活動への反応を含めての物理的および生物的環境との相互作用を扱う科学」である(風間 , 2011).よって水文学は,元来,自然現象としての水循環に合わせて,それの人間活動への反応や生物環境をも扱う学問であり,これまでにも水文社会学や水文経済学といった人間活動と水循環を関連付けた研究が行われてきた.
以上のような人間活動を扱った既往研究では,水管理という人間活動の中に水循環系を取り込み,管理(操作)可能にすることを主な目的としてきたといってよい.よって,このような研究では,例えば,「もしダムを建設したら社会へどのような影響があるのか」,「もし水質を改善したら社会経済へどのような効果があるか」,といった「もし~したら」というシナリオにもとづく一方向的な分析が主体であった.これらのシナリオは「外因的」,すなわち所与の境界条件として与えられている点に特徴がある.
しかし,実現象がシナリオ通りには進まないことは歴史的に自明である.例えば,ダムを建設したら河川環境が変わるが,その河川環境を改善するための別の対策や活動が実施されたりダムの運用方法が変更されることで,河川環境は再び変化する.つまり,実現象の中には,人間活動は水循環を変えるが,水循環が変わると人間活動が変わるといった,人間活動と水循環の間の双方向的なフィードバック(共進化過程)が存在する.よって,実現象としての水循環や水管理を長期的な視程で捉えるためには,人間活動と水循環を一体的なシステムとして捉え,それらの間の相互フィードバックを考慮する必要がある.社会水文学の試みとは,人間活動と水循環の動態を一体化し,人間活動と水循環の間の相互フィードバックを「内在化」することである.[中村ら, 2020より抜粋]
水文学は,「地球の水を扱う科学,その発生,循環,分布,その物理的および化学的特性,またそれら特性の人間活動への反応を含めての物理的および生物的環境との相互作用を扱う科学」である(風間 , 2011).よって水文学は,元来,自然現象としての水循環に合わせて,それの人間活動への反応や生物環境をも扱う学問であり,これまでにも水文社会学や水文経済学といった人間活動と水循環を関連付けた研究が行われてきた.
以上のような人間活動を扱った既往研究では,水管理という人間活動の中に水循環系を取り込み,管理(操作)可能にすることを主な目的としてきたといってよい.よって,このような研究では,例えば,「もしダムを建設したら社会へどのような影響があるのか」,「もし水質を改善したら社会経済へどのような効果があるか」,といった「もし~したら」というシナリオにもとづく一方向的な分析が主体であった.これらのシナリオは「外因的」,すなわち所与の境界条件として与えられている点に特徴がある.
しかし,実現象がシナリオ通りには進まないことは歴史的に自明である.例えば,ダムを建設したら河川環境が変わるが,その河川環境を改善するための別の対策や活動が実施されたりダムの運用方法が変更されることで,河川環境は再び変化する.つまり,実現象の中には,人間活動は水循環を変えるが,水循環が変わると人間活動が変わるといった,人間活動と水循環の間の双方向的なフィードバック(共進化過程)が存在する.よって,実現象としての水循環や水管理を長期的な視程で捉えるためには,人間活動と水循環を一体的なシステムとして捉え,それらの間の相互フィードバックを考慮する必要がある.社会水文学の試みとは,人間活動と水循環の動態を一体化し,人間活動と水循環の間の相互フィードバックを「内在化」することである.[中村ら, 2020より抜粋]
キーワード
社会水文学 / 人間ー水システム / システムダイナミクス / 学際研究
ID | 2023_E326 |
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調査回 | 2023 |
注目/兆し | 注目 |
所属機関 | 大学 |
専門分野 | 社会基盤 |
専門度 | 高 |
実現時期 | 5年以降10年未満 |
分析データ 推定科研費審査区分(中区分) | 22 (土木工学) |
分析データ クラスタ | 14 (気候) |
研究段階
2012 年以降,社会と洪水の相互作用の他に,社会水文学に関する幅広い研究が行われている.Xu et al.(2018)によると,2017年までに出版された社会水文学に関する文献数は101本(研究論文76 本,会議論文13 本,その他12 本)に上り,その後も論文数を急速に増加しているとみられる.また,それらの研究の実施主体は,水文学者に限らず,社会科学,土木・環境工学,地理学,数理学,気候学,気象学,自然地理学,複合学まで広範な研究者で構成されている(Xu et al., 2018).[中村ら, 2020より抜粋]
インパクト
気候変動や人口減少をきっかけに,水にまつわる課題が顕在化してきている現在,それらの解決に向けた学際研究や様々なステークホルダーとの協働の必要性が叫ばれている.現時点の社会水文学は必ずしもこれらの実課題へ即座に応えられるものではないが,人間-水システムの真理の追究という行為を通して,様々な分野の研究者が集い議論を行うことにも,この学問が展開される重要な意義があると考えている.社会水文学が,日本の水文・水資源に関する学際研究をさらに進展させる,一つのきっかけになることを期待したい. [中村ら, 2020より抜粋]
必要な要素
社会水文学の展開のためには,歴史学や都市学,経済学,政治学,人類学といった社会系分野と,水文学や気象学,水理学,生態学といった自然系分野との統合的・学際的な研究の場が不可欠である.社会水文学が人間社会と水の両面を扱う学問である以上,水文学者だけでなく,水に関わる文系・理系を問わない幅広い分野の研究者・専門家が集い,議論が展開される必要がある. [中村ら, 2020より抜粋]