NISTEP注目科学技術 - 2023_E323

概要
神経アンサンブルを基軸とした中枢疾患とAIの統合的理解:
近年、単一細胞レベルの空間分解能を持つ様々な技術が開発されており、中枢神経系においても、多種多様な「新たな」細胞集団が同定されつつある。しかしながら、視覚野を模倣した画像認識AIの挙動からも明らかなように、ほぼ同一の機能を実現し得る、全く異なる神経結合パターンというのは無数に存在し得る。例えば、「リンゴ」と関連付けられた神経活動パターンは、極めて個人的であり、個人Aと個人Bの「リンゴ」神経は全く別のパターンであると考えられる。脳は、このような神経集団の活動(神経アンサンブル)を一つの機能単位として使うことで、多種多様な情報処理を行っていることから、機能的な観点から考えた場合の脳の最小構成単位は、単一細胞ではなく神経アンサンブルであるといえる。単一細胞の解析のみではわからない、このような神経アンサンブルの機能異常は、認知・記憶・情動・運動の全ての障害につながると考えられることから、近年大きく注目を集めている。脳の視覚野の神経応答性・結合性の基礎研究が、深層学習の爆発的発展の基礎をなしたことから、脳機能とその破綻の神経生物学的な基礎が革新的なAI開発の土壌となる可能性は高いと考えられている。
キーワード
神経アンサンブル / AI / 神経科学 / 全脳アーキテクチャ
ID 2023_E323
調査回 2023
注目/兆し 注目
所属機関 大学
専門分野 ライフサイエンス
専門度
実現時期 5年以降10年未満
分析データ 推定科研費審査区分(中区分) 46 (神経科学)
分析データ クラスタ 61 (脳神経科学)
研究段階
研究室で開発している段階
インパクト
疾患の治療・QOLの向上
新たな技術の創出
必要な要素
現状ではAI分野に多くの資源が投下されているが、深層学習の事例を見ても明らかなように、情報科学は極少数の精鋭研究者が革新的な研究成果をもたらすため、単位研究者あたりの投下資源を増やしても成果を得られる可能性は低く、むしろ広く浅く支援するのが望ましいと推定される。一方、生物学的な基礎研究は、一つの仮説検証に膨大な実時間と労力を必要とする時代が到来していることから、広く深く支援しなければ、世界との競争に勝つことはできない。ライフサイエンス分野においては、研究に必要な規模がこの10年で急激に大きくなっていることを鑑みれば、研究費を広く深く配分することが必要である。