NISTEP注目科学技術 - 2023_E279
概要
国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構の三井上席研究員、綿貫副所長らは、高輝度放射線光源を利用したメスバウアー分光法を利用して金属薄膜の磁性を一原子層単位の精度で調べる新しい計測技術を開発した。メスバウアー分光法は特定のエネルギーを持ったX線等を材料に照射して、そのX線を共鳴吸収する元素の磁性等を調べる方法であり、原子磁石の中の原子核の位置での「内部磁場」を計測することができる。三井らは大型放射光施設SPring-8の量研専用ビームラインBL11XUで独自開発した高強度で指向性が高い放射光メスバウアー線源を用い、Ⅹ線集光装置でマイクロビーム化することで表面付近を集中的に観察できるようにした。これに加えて10^-9Paに至る超高真空下で測定できるシステムを構築し、放射光メスバウアー分光装置・薄膜試料作製装置・試料搬送容器で構成された原子層分解磁気構造解析システムを構築した。
本開発により実現した一原子層単位での局所磁性探査技術は材料表面のごく近傍だけでなく、より深い箇所まで一原子層の深さ分解能で観察できることに大きな特長がある。従来、深さ分解能のある計測法では計測深度が取れない一方で、計測深度のある方法では深さ分解能を追求できなかった。本技術は、これらを両立させることを可能にする画期的な手法である。三井らは本開発により実現した局所磁性探査技術の特長を活かして、磁石のミクロな振る舞いにより動作するスピントロニクスデバイスなど高速・省エネルギーな次世代情報デバイスの開発を目指し、磁性材料など異なる材料をナノメートルスケールで積層した多層膜の各層の内部や界面の局所磁性の分析に活用していく予定である。
本開発により実現した一原子層単位での局所磁性探査技術は材料表面のごく近傍だけでなく、より深い箇所まで一原子層の深さ分解能で観察できることに大きな特長がある。従来、深さ分解能のある計測法では計測深度が取れない一方で、計測深度のある方法では深さ分解能を追求できなかった。本技術は、これらを両立させることを可能にする画期的な手法である。三井らは本開発により実現した局所磁性探査技術の特長を活かして、磁石のミクロな振る舞いにより動作するスピントロニクスデバイスなど高速・省エネルギーな次世代情報デバイスの開発を目指し、磁性材料など異なる材料をナノメートルスケールで積層した多層膜の各層の内部や界面の局所磁性の分析に活用していく予定である。
キーワード
メスバウアー分光法 / スピントロニクスデバイス / 磁性
ID | 2023_E279 |
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調査回 | 2023 |
注目/兆し | 注目 |
所属機関 | 公的機関 |
専門分野 | ナノテクノロジー・材料 |
専門度 | 低 |
実現時期 | 5年未満 |
分析データ 推定科研費審査区分(中区分) | 29 (応用物理物性) |
分析データ クラスタ | 37 (電磁波・光学・レーザー・光半導体) |
研究段階
三井らはすでに高輝度放射光源を用いたメスバウアー分光法を利用して金属薄膜の磁性を一原子層単位で調べる新しい計測技術を開発しており、本計測技術を利用して磁石の代表ともいえる鉄についてこれまで明らかにされてこなかった表面付近の磁性を詳しく調査した。表面から深さ方向に深くなるにつれて磁力が一原子層ごとに増減している複雑な現象を世界で初めて明らかにし、この現象が約40年前に理論的に提案されていた「磁気フリーデル振動」であることを突き止めている。本成果は米科学誌『Physical Review Letters』に、同誌が選ぶ特に重要な論文である“PRL Editors’ Suggestion”として掲載されている。
磁気デバイスにおける多層膜の各層の内部や界面の局所磁性の分析に供するには、今後真空、低温、磁場や電場等の特殊環境下で金属薄膜の深く埋もれた界面の磁性探査と機能情報を抽出・可視化できる深部オペランドメスバウアー分光装置の開発が必要な状況である。
論文タイトル:Magnetic Friedel Oscillation at Fe(001) Surface: Direct Observation by Atomic-Layer-Resolved Synchrotron Radiation 57Fe Mössbauer Spectroscopy
著者:T. Mitsui, S. Sakai, S. Li, T. Ueno, T. Watanuki, Y. Kobayashi, R. Masuda, M. Seto, and H. Akai
DOI:https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.125.236806
磁気デバイスにおける多層膜の各層の内部や界面の局所磁性の分析に供するには、今後真空、低温、磁場や電場等の特殊環境下で金属薄膜の深く埋もれた界面の磁性探査と機能情報を抽出・可視化できる深部オペランドメスバウアー分光装置の開発が必要な状況である。
論文タイトル:Magnetic Friedel Oscillation at Fe(001) Surface: Direct Observation by Atomic-Layer-Resolved Synchrotron Radiation 57Fe Mössbauer Spectroscopy
著者:T. Mitsui, S. Sakai, S. Li, T. Ueno, T. Watanuki, Y. Kobayashi, R. Masuda, M. Seto, and H. Akai
DOI:https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.125.236806
インパクト
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必要な要素
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