NISTEP注目科学技術 - 2023_E262

概要
近赤外光を用いた脳機能イメージング技術の高度化.
(概要)頭部表面に照射された生体透過性の高い近赤外光は頭部内で拡散光となり,脳表面を通って再び頭部表面に戻って検出され,脳活動に伴う血液量変化の観測により脳活動を知ることができる.この技術は脳活動を2次元画像として描き出す光トポグラフィとして商品化されているが,空間分解能や頭皮血流の影響などがあり,性能が不十分で技術的にも初期段階と言える.現在商品化されている装置は,デバイスのサイズや価格の面から光源には連続光を用いているが,光源にピコ秒オーダーの極短パルス光を用い,検出器もピコ秒オーダーの時間分解能を持つ,いわゆる時間領域計測法を用いればデータ量が格段に増えることと,光源から検出器までの光路長を知ることから,イメージング性能が大幅に向上されることが知られていた.しかし,これまでは時間領域計測法に必須の光源と検出器のサイズが大きく,また光ファイバを用いていたため,実用化には課題があった.最近,米国のベンチャー企業により,時間領域計測法の光源と検出器を超小型化した近赤外光イメージング装置が開発され,ヒト頭部に50個以上の光源・検出器ペアを光ファイバなしで装着し,無線でデータ取得が可能となった.この結果,光トポグラフィの性能を大幅に向上することが可能となり,今後,光トポグラフィ市場の拡大が期待される.
さらに,光源・検出器間の距離が短いペアや長いペアでの大量の拡散光データを得ることから,3次元の断層画像つまり拡散光トモグラフィ画像の再構成が可能である.これまでも,頭部や四肢に関して拡散光トモグラフィの研究開発は精力的に行われ,連続光を光源とする装置も開発され,光トポグラフィで課題となっている頭皮血流の影響を回避して脳活動を3次元画像化した研究成果も得られていたが,やはり装置が大掛かりで複雑となり,実用化のネックとなっていた.今回開発された超小型の光源・検出器デバイスを用いた時間領域の拡散光イメージング装置で得られる大量のデータにより,高性能な拡散光トモグラフィ画像を再構成する研究開発が進められている.拡散光トモグラフィでは脳の表層に限られるものの,脳の高次機能に関する有用な画像が得られ,fMRI,MEGおよび脳波と相互補完する脳活動の画像化により脳機能の解明とその応用への貢献が期待される.
キーワード
近赤外光イメージング / 時間領域の光計測技術 / 超小型近赤外光源・検出器デバイス / 拡散光トモグラフィ / 近赤外光による脳機能画像化
ID 2023_E262
調査回 2023
注目/兆し 注目
所属機関 大学
専門分野 ライフサイエンス
専門度
実現時期 5年未満
分析データ 推定科研費審査区分(中区分) 90 (人間医工学)
分析データ クラスタ 37 (電磁波・光学・レーザー・光半導体)
研究段階
企業との共同研究が進んでいる段階
インパクト
脳神経科学への貢献,個人の健康・幸福度の向上,健康産業での新たなサービスの創出
必要な要素
超小型近赤外光源・検出器デバイスの低価格化,拡散光トモグラフィの画像再構成アルゴリズムの簡易化