NISTEP注目科学技術 - 2023_E251

概要
Fusion Power Coplex
現在、核融合エネルギーが低炭素社会実現の切り札として大きな期待を集めているが、核融合エネルギーを単にCO2を排出しない電力源として捉えることは危険である。というのも、電力事業者から見た場合、原子力発電所の維持・管理は大きな負担となっており、また関東、関西といった大都市圏の電力事業者出ない限り、自然再生エネルギーがすでに発電総量の中で大きな割合を占めているからである。従って、核融合発電が実現したとしても、それを現在の電力グリッドに接続して活用できるかどうかは別問題である。
また、現在の核融合炉の設計は、核融合炉の廃熱を利用して蒸気タービンによる発電を行うもので、熱効率の観点から火力発電所や原子力発電所と何ら変わることがない非効率的な発電方法を行うことが想定されている。
一方、太陽光や風力などの自然再生エネルギーは、発電量が安定でないという致命的な問題が存在する。この問題を解決するために同期発電や蓄電といった分野でのイノベーションが期待されている。
そこで、将来実現するであろう核融合エネルギーを単なる発電に用いるのではなく、液体水素を活用した電力ストレージとして活用するアイデア、'Fusion Power Complex'、が提案されている。これは、核融合炉の超伝導コイルを冷却するために液体水素を使う事から派生したアイデアである。まず、核融合エネルギーは、電力に変換するのではなく、核融合反応の高温を活用した直接熱分解による水素製造に活用される。そして、液体水素で冷却する巨大な超伝導コイルもつ核融合炉自体を、巨大な液体水素ストレージとして見なせば、電力を一度、液体水素の形でストレージし、その後必要に応じて電力や水素として取り出すことが出来る。不安定な自然再生エネルギーが組み込まれた電力グリッドを安定させるの最適な発電・蓄電ユニットとなる。
キーワード
核融合エネルギー / 水素製造 / 電池(超伝導蓄電) / エネルギー変換
ID 2023_E251
調査回 2023
注目/兆し 注目
所属機関 大学
専門分野 エネルギー
専門度
実現時期 10年以降
分析データ 推定科研費審査区分(中区分) 31 (原子力工学、地球資源工学、エネルギー学)
分析データ クラスタ 38 (計算機・電気通信・通信デバイス・量子計算機)
研究段階
高温熱分解による水素製造はコストの観点から、これまで研究が進んでいない。従って、研究段階としては研究室で開発研究が進んでいる状態。
また、核融合エネルギーの実現には、まだまだ時間が必要な状況。一部、スタートアップ企業が早期実現を叫んでいるが、とてもそのような状況ではない。実際に核融合原型炉が実現するのが15年から20年先と思われる。
インパクト
不安定な自然再生エネルギーや、逼迫した電力事情を考えた場合、電力安定化に使用可能な同期発電と高性能な蓄電システムを電力グリッドに組み込む必要がある。現在、同期発電には早い立ち上げが可能な火力発電が用いられているが、この火力発電がCO2排出量低減を難しくしている。一方、蓄電に関しては、バッテリー技術の進化が著しいが、大容量のものはまだまだ難しい。
Fusion Power Complexが実現すれば、核融合エネルギーを液体水素の状態でストレージ出来るので、必要な場合は燃料電池で素早く電力を取り出すことが出来、また別の形でもエネルギーを取り出すことが出来るので、この分野にイノベーションを引き起こすと期待できる。
必要な要素
核融合炉の液体水素冷却は高温超伝導の実現が前提となっているので、核融合炉を製作可能な高温超伝導導体の開発には、まだ時間が必要である。
また、前述のように、高温熱分解による水素製造はまだ研究段階であるので、この部分でも進展が必要である。