NISTEP注目科学技術 - 2023_E245

概要
海洋の小スケール変動の観測把握と,それを反映させた実用レベルで正確な海況予測。
海洋の変動には様々な時空間スケールの現象が混在していて,その相互作用によって現象の時間発展や物質の混合・輸送過程などが決まっている。これまでの海洋観測では,船舶や係留系などの現場観測による小スケールの現象の把握と,人工衛星による大きなスケール現象把握は進んでいるが,数10km程度のサブメソスケールの現象の把握ができておらず,特に非線形的に急変する時間変化の把握ができないため,海況の将来予測に不確実性が生まれてきている。また,このスケールは漁業など実利用レベルにおいて最も重要なため,漁業などでの実用面での活用に困難が生じている。
しかし,NASAを中心に2022年12月に打ち上げられた新型海面高度計SWOTは,海面高の面的な分布を初めて計測する。海洋フロント周辺の渦活動や,渦と渦の相互作用による変形など,これまで見ることができなかった構造を詳細に観測できるようになり,その力学過程を解明できるようになる。さらに,これらは異なる水塊の混合プロセスに関与していて,好漁場の形成域でもあることから,生化学や気候学的な発展も大いに期待されている。
加えて,近年のドローン技術の急速な発達は,海洋学においても重要な変革をもたらしている。高い構造物が存在しない洋上では,ドローンを用いた高い高度からの俯瞰観測がもたらす利益は大きく,現場でサブメソスケールの現象を把握することができる貴重なツールとなる。今後,より強力なドローンの開発と,センサーの小型軽量化が進むと,衛星観測と船舶観測の中間のサブメソスケールの現象把握が急速に進み,海況予測に貢献すると期待されている。
キーワード
衛星計測 / ドローン利用 / 海況予測 / 漁場予測 / 海水交換
ID 2023_E245
調査回 2023
注目/兆し 注目
所属機関 大学
専門分野 宇宙・海洋・科学基盤
専門度
実現時期 5年未満
分析データ 推定科研費審査区分(中区分) 17 (地球惑星科学)
分析データ クラスタ 14 (気候)
研究段階
現場で利用できるツールが揃い始め,本格的な観測データが蓄積し始める段階。
インパクト
地球流体力学的なスケール間遷移と物質・物理量輸送に関する理解
正確な海況予測による,運送業・漁業・安全管理・マリンレジャーの各業種への貢献
正確な海況予測による,海流発電や洋上風力発電の場所選定への貢献
蓄積データの公開による国際貢献
必要な要素
ドローン開発およびセンサー開発が必須である。また,新型海面高度計衛星SWOTの計測寿命が5年程度なので,その後継機の確保のための国際協力も必要である。
さらに,洋上ドローン利用に関して,少なくとも公的機関に対する法的な緩和がなされると事業が進展すると思われる。