NISTEP注目科学技術 - 2023_E241

概要
加速器を用いたFLASH(フラッシュ)放射線治療は今後10年後の放射線によるがん治療に大きな革命をもたらすと期待されている。従来の放射線治療においては正常細胞に対する被ばく線量の上限から、がんなどの腫瘍に対して十分な線量照射が行えない場合が存在していたが、短時間でパルス的に照射を行うFLASH治療においては、正常細胞に対する被爆による影響が抑えられることが実験的に確認されており、従来治療が困難であった腫瘍に対しても治療を可能とする革新的な技術である。
キーワード
放射線治療 / 加速器 / がん治療 / 副作用抑制
ID 2023_E241
調査回 2023
注目/兆し 注目
所属機関 大学
専門分野 ナノテクノロジー・材料
専門度
実現時期 5年以降10年未満
分析データ 推定科研費審査区分(中区分) 52 (内科学一般)
分析データ クラスタ 43 (医用画像工学)
研究段階
アメリカでは、研究者のみならずVarian社などの放射線治療で有名なメーカーも積極的に開発を進めており、すでに臨床試験も行われている段階にある。また、海外においては、FLASHに特化した研究会も多く開催されており、その注目度も高いことが伺われる。
一方、国内においてはFLASH治療の研究をしているのは一部の研究者に限られており、開発において大きく出遅れている印象を受ける。
インパクト
放射線治療が他国と比べて多く行われている我が国においては、保険適用の先進医療の一つの選択肢にもなっており、また、平均寿命が高い要因にもつながっている。これだけ広く放射線治療が受け入れられている我が国において、放射線治療の効果を飛躍的に高めることのできるFLASH治療の技術が実現することは医療の新たなステージを提供するものとなり、国民に対する健康・幸福度向上に間違いなく繋がる。
必要な要素
加速器側の技術としては現状の加速器技術、さらには、死蔵しているものも含めて現状存在する小中程度の加速器装置を活用して行えることが多い。ただ、問題点として考えられるのは、こういった小中の加速器施設におけるマンパワーがすでに限界にまで縮小されているところが多く、医療応用ではない加速器を医療応用とするための法令上の施設申請変更など多くの手続きを行う上での人的資源としてのハードルが高い。既存施設の再活用の観点からか、海外では電子線を利用したFLASH治療が多く行われており、関連した発表を聞く機会が多いのだが、国内の加速器治療では陽子線治療が主流となっており電子線治療に対する専門家が少ない点も懸念点として挙げられる。印象としては、技術の問題というよりも、法的制約や実際に実験を行うための人的資源がネックとなっていると考える。こういった問題は現状の体制からは一つの大学内で解決することは容易ではなく、国のプロジェクトとして複数研究機関のエキスパートを集約させる必要があると感じている。