NISTEP注目科学技術 - 2020_E792

概要
「放射光単色X線を利用した新規がん治療技術の開発」
ナノ粒子にガドリニウムやヨウ素を担持した薬剤をがん細胞に取り込ませて放射光単色X線を照射することにより、正常細胞へのダメージを抑制し、がん細胞のみを効率よく殺傷する技術が開発されている。
従来の放射線治療に用いられている白色X線を人体に照射した場合、体の表面に近い部分で低エネルギーX線が吸収されるため、体内の患部に届く放射線エネルギーが減衰する、および、皮膚にやけど状の傷が残るといった問題がある。加えて、白色X線の細胞殺傷能力は正常細胞とがん細胞を比べた場合、がん細胞のそれがわずかに大きいだけである。がん細胞を完全に殺傷するためには高線量の白色X線を照射する必要があり、ここでも正常細胞へのダメージが大きい。現在は照射方法を工夫することで、正常細胞へのダメージ低減を行っている。
今回紹介するがん殺傷技術は、がん細胞殺傷能力が高いエネルギーのX線のみを用いるため、正常細胞へのダメージを押さえることができる。本技術のポイントの一つはガドリニウムなどの原子番号の大きい元素(高Z元素)を担持したナノ粒子を、がん細胞に取り込ませる技術である。細胞に取り込まれた高Z元素に、元素のK吸収端直上のエネルギーの単色X線を照射すると、オージェ電子などの二次放射線が発生する。この二次放射線が効率的にがん細胞を殺傷することが報告されている。上記薬剤はがん細胞周辺に集積する特性があり、正常細胞には蓄積されないため、正常細胞へのダメージが抑制される。
以上の様に、今回紹介するがん殺傷技術は副作用が少なく、患者への負担が小さい新しいがん治療方法の確立につながることが期待されている。
キーワード
2020年調査にはこの項目はありません。
ID 2020_E792
調査回 2020
注目/兆し 2020
※2020年調査にはこの項目はありません。区別のため、便宜上 「2020」 としています。
所属機関 公的機関
専門分野 ナノテクノロジー・材料
専門度 -
2020年調査にはこの項目はありません。
実現時期 10年以降
分析データ 推定科研費審査区分(中区分) 52 (内科学一般)
分析データ クラスタ 6 (分子生物学/診断・治療)
研究段階
2020年調査にはこの項目はありません。
インパクト
2020年調査にはこの項目はありません。
必要な要素
開発中のがん殺傷技術は、現在はin vitroで効果が確かめられている段階である。今後はin vivo、さらに臨床実験と研究を進めていく必要がある。また、開発中のナノ粒子薬剤の安全性や人体への影響を慎重に調べる必要がある。
がんは遺伝的なもの、突発的なものがあり、予防接種を接種すれば防げる病気ではないことから、治療する患者の体質や、がんの種類などをもとに、よりよい治療方法を選択する必要がある。そのためにも、他の放射線治療と比較した際の利点や問題点などの調査も重要である。