NISTEP注目科学技術 - 2020_E762
概要
高質で産子につながるヒト卵子の作出・保存技術に注目している。近年、日本の人口の減少は急激であり、新型コロナの影響による2020年の急激な低下を見てもわかるように、感染症の蔓延や経済の困窮など、出生率は困難に対して下振れしやすく、好材料がないと穏やかな下降は今後も進むかと思われる。すでに諸外国に比べても後手に回っている少子化対策は我が国のためにも今すぐに何らかの手を打つ必要があると考えられる。
そもそも、近年の先進国における出生率の低下は高齢化の進行速度を越えて加速し、不妊症と認定されるカップルは6組に1組以上に達している。これは、国民全体のQOLの確保を考えると早急に改善を考慮するべき状況と推察される。現在の少子化の根源にあるのは、女性の年齢が35歳ごろになると現れる“卵の質の低下”という生物学的現象と、女性の進出を推進してきた近年の社会構造の変化との軋轢が主要因と思われる。女性の社会進出も支持しつつ、より可変的に出産時期をコントロールしたらしめ、ひいては人生全体のQOLの向上へと結びつけるには、原因となる生物学限界を回避あるいは打破する新しいブレイクスルーが必要だと考えている。そのための重要な技術の一つが、卵子が老化する前に凍結保存する技術である。代理母出産の事例などから、着床するための子宮は50歳前後まで胎児を保育する力が衰えにくいとされていることから、若いうちに高い質の卵子を凍結しておくのは上記の解決策の一つになりえる。一方で、病気等で卵巣や子宮に問題を抱え不妊に至った場合や、すでに現在卵子が加齢問題を呈している患者の場合には、高質な卵子の作出を補助する手法が必要になると思われる。幸いなことに、この問題について最も科学的進展をもたらしているのは日本人研究者である。iPS細胞からの哺乳類卵子作出に成功したのは日本人研究者(九州大・林教授ら)であり、同じグループからさらにiPSから卵子様の細胞を作出するための決定的遺伝子も同定され、上記のブレイクスルーを絵空事でなくしたと感じている。今こそ、これらの国産技術の進展を助長し、先進国の中でも日本が先駆けて生殖補助医療大国になることで、恒久的な少子化対策の礎になるように思われる。
そもそも、近年の先進国における出生率の低下は高齢化の進行速度を越えて加速し、不妊症と認定されるカップルは6組に1組以上に達している。これは、国民全体のQOLの確保を考えると早急に改善を考慮するべき状況と推察される。現在の少子化の根源にあるのは、女性の年齢が35歳ごろになると現れる“卵の質の低下”という生物学的現象と、女性の進出を推進してきた近年の社会構造の変化との軋轢が主要因と思われる。女性の社会進出も支持しつつ、より可変的に出産時期をコントロールしたらしめ、ひいては人生全体のQOLの向上へと結びつけるには、原因となる生物学限界を回避あるいは打破する新しいブレイクスルーが必要だと考えている。そのための重要な技術の一つが、卵子が老化する前に凍結保存する技術である。代理母出産の事例などから、着床するための子宮は50歳前後まで胎児を保育する力が衰えにくいとされていることから、若いうちに高い質の卵子を凍結しておくのは上記の解決策の一つになりえる。一方で、病気等で卵巣や子宮に問題を抱え不妊に至った場合や、すでに現在卵子が加齢問題を呈している患者の場合には、高質な卵子の作出を補助する手法が必要になると思われる。幸いなことに、この問題について最も科学的進展をもたらしているのは日本人研究者である。iPS細胞からの哺乳類卵子作出に成功したのは日本人研究者(九州大・林教授ら)であり、同じグループからさらにiPSから卵子様の細胞を作出するための決定的遺伝子も同定され、上記のブレイクスルーを絵空事でなくしたと感じている。今こそ、これらの国産技術の進展を助長し、先進国の中でも日本が先駆けて生殖補助医療大国になることで、恒久的な少子化対策の礎になるように思われる。
キーワード
2020年調査にはこの項目はありません。
ID | 2020_E762 |
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調査回 | 2020 |
注目/兆し |
2020 ※2020年調査にはこの項目はありません。区別のため、便宜上 「2020」 としています。 |
所属機関 | 大学 |
専門分野 | ライフサイエンス |
専門度 | - 2020年調査にはこの項目はありません。 |
実現時期 | 10年未満 |
分析データ 推定科研費審査区分(中区分) | 56 (生体機能および感覚に関する外科学) |
分析データ クラスタ | 13 (社会医療・看護/生命予後・社会復帰・在宅ケア) |
研究段階
2020年調査にはこの項目はありません。
インパクト
2020年調査にはこの項目はありません。
必要な要素
晩婚化と少子化の相関問題と女性の自己実現を同時に解決するには、社会的体制の整備や現況の認識を打破する社会構造の定着、さらには卵子の保存や不妊治療への公的保障の充実といった政治的先導も必要であるのは間違いない。現在、社会としてこの実現に沿った動きが増えつつあるのはよいが、その変化と定着には長い年月がかかる点と、緩やかに考え方を浸透させていく場合、帰結する着地点が出生率の高い社会かも不明だという点を懸念している。すなわち、本件はレギュラトリーサイエンスとしての視点を忘れてはならず、今後進展させるひとつのブレイクスルーは、国として本件の情報を明らかにし、議論を経て早期に方針を決めることと思われる。
次に、科学技術的課題については、現在卵子の凍結保存技術はすでに高い水準にあり、受精卵から産子を得る確率についても、凍結前の発生率に対してそれほど大きく落ち込まずに済むようになっている。あとはこれを知らしめる啓蒙活動や、現在は特に女性の自己実現のためにこれを用いることについて議論されつくしていないのに対して、議論を含めた社会体制の整備などが大きな課題になると認識している。
一方、上述したように不妊と思しき症状をすでに呈している場合には、排卵した卵子を得ることが技術的に難しい。これも日本人研究者らが活躍して明らかにしたこととして、加齢による卵子の質の変調については、排卵される前の減数分裂期ですでに生じているとするのが近年支持される考え方である。よって、必要とされるブレイクスルー技術として、卵巣から排卵前の卵子を取り出して体外にて高質な卵子に発育される技術、あるいはiPS細胞のような完全に未分化な細胞から高質な卵子を創り出す技術が重要と思われる。さらに述べると、これらの技術によって創出した卵子は、産子に至るには母体に着床させることが必要であり、1人の母体に着床させられる機会は実質的には非常に少ないことに留意することが重要である。すなわち、得られた卵子についてどの卵子が最も高質で移植にふさわしいかを評価する、それも卵子の発育に対して非侵襲的に評価するための基礎科学的な技術構築がブレイクスルーにおいて絶対な要素だと思われる。これらの技術は相乗的な効果が期待でき、かつ現在の最先端技術が我が国にそろっていることを考えると、より注目に値すると考える。
次に、科学技術的課題については、現在卵子の凍結保存技術はすでに高い水準にあり、受精卵から産子を得る確率についても、凍結前の発生率に対してそれほど大きく落ち込まずに済むようになっている。あとはこれを知らしめる啓蒙活動や、現在は特に女性の自己実現のためにこれを用いることについて議論されつくしていないのに対して、議論を含めた社会体制の整備などが大きな課題になると認識している。
一方、上述したように不妊と思しき症状をすでに呈している場合には、排卵した卵子を得ることが技術的に難しい。これも日本人研究者らが活躍して明らかにしたこととして、加齢による卵子の質の変調については、排卵される前の減数分裂期ですでに生じているとするのが近年支持される考え方である。よって、必要とされるブレイクスルー技術として、卵巣から排卵前の卵子を取り出して体外にて高質な卵子に発育される技術、あるいはiPS細胞のような完全に未分化な細胞から高質な卵子を創り出す技術が重要と思われる。さらに述べると、これらの技術によって創出した卵子は、産子に至るには母体に着床させることが必要であり、1人の母体に着床させられる機会は実質的には非常に少ないことに留意することが重要である。すなわち、得られた卵子についてどの卵子が最も高質で移植にふさわしいかを評価する、それも卵子の発育に対して非侵襲的に評価するための基礎科学的な技術構築がブレイクスルーにおいて絶対な要素だと思われる。これらの技術は相乗的な効果が期待でき、かつ現在の最先端技術が我が国にそろっていることを考えると、より注目に値すると考える。