NISTEP注目科学技術 - 2020_E604

概要
がん組織の挙動を体外で再現できる基板を開発し、新たな創薬研究への貢献が期待できる技術。
本研究では、培養がん細胞が生体内と同様に,悪性新生物となって動き回る様子を観察できる基板を開発しました。特に、悪性度の高い膵がん細胞が腫瘍組織を形成、浸潤し、かつ免疫系から逃れる様子を再現する事に成功しました。がんの形成や進行の新メカニズム解明のほか、動物実験に頼らない新薬開発に貢献できるものと考えます。
北海道大学大学院医学研究院の宮武由甲子助教、同高等教育推進機構の繁富(栗林)香織特任准教授らの研究グループでは、培養がん細胞が自ら微小ながん腫瘍組織を形成、成長しながら動き回る様子を観察できるマイクロナノ基板を開発しました。
本研究により、がん腫瘍組織があたかも一つの飢えた生き物のように餌を求めて這いずり回ることが明らかとなり、がん腫瘍組織の攻撃的かつ戦略的といえる挙動を世界で初めて動画で捉えることに成功しました。
これまでがんに関する研究では、平面の培養皿(ディッシュ)上に培養された細胞を用いることが多く、そこで得られるデータは必ずしも実験動物や臨床検体を用いた実験結果とは一致しないことが問題とされてきました。これは、ディッシュ上の培養がん「細胞」は,生体に生じるがん「組織」そのものとは形状や性質がかけ離れていることが一因と考えられます。また三次元細胞培養技術により得られる模倣的ながん組織でも、がんの浸潤の様子から推測される挙動を再現できていないことから、培養細胞と実験動物の間をつなげる実験系が求められていました。
本研究で開発したマイクロナノ基板上で膵がん細胞を培養したところ、単なるがん細胞の塊ではない、生体に存在するものにより近い膵がん腫瘍組織を再現できることがわかりました。この膵がん腫瘍組織は組織そのものが成熟してダイナミックに動き回り、さらに死んだ細胞の目印を表面にまとうことで、免疫系からの攻撃を逃れていることも明らかになりました。この実験系を用いれば、治療の障壁となっているがんの難治性の仕組みが明らかになるとともに、新しい抗がん剤の開発においても、動物試験を減らしながら、多くの化合物をテストする上で有用なツールとなることが期待さ
れます。
キーワード
2020年調査にはこの項目はありません。
ID 2020_E604
調査回 2020
注目/兆し 2020
※2020年調査にはこの項目はありません。区別のため、便宜上 「2020」 としています。
所属機関 大学
専門分野 ナノテクノロジー・材料
専門度 -
2020年調査にはこの項目はありません。
実現時期 10年未満
分析データ 推定科研費審査区分(中区分) 90 (人間医工学)
分析データ クラスタ 6 (分子生物学/診断・治療)
研究段階
2020年調査にはこの項目はありません。
インパクト
2020年調査にはこの項目はありません。
必要な要素
フィルム化による低コスト化の実現。現在はフォトリソグラフィー法による手作業で
製作しており、時間がかかり高コストであるため、研究推進のボトルネックとなって
います。

フィルム化により様々なパターンの3D構造を構築することが可能となることで、微
小癌自己組織化に最も適した構造の探索が可能となります。またこれらの知見は、細
胞培養面の物理的な構造のみによって、細胞から組織への分化を誘導させることがで
きるという新規現象の細胞生物学的なメカニズム解明にも役立ちます。