NISTEP注目科学技術 - 2020_E575

概要
「核融合発電」
核融合発電の実現は人類史上最大の投資を伴う事業となるが、日本が自国で真のカーボンニュートラル達成、発電燃料の十分な確保、世界に先駆けての技術構築達成する観点から、推進すべき科学技術である。
核融合発電開発の現状:国際熱核融合実験炉ITERは、日本も機関国である国際プロジェクトである。2025年からプラズマ実験を開始し、2035年頃に重水素-三重水素プラズマによる核燃焼プラズマ実験を開始予定である。ITERではエネルギー利得(入力エネルギーに対する出力エネルギーの比)で10を目指しており、核融合発電炉実証を目指す。日本は、燃料の一つである三重水素を効率的に使用するために自己増殖技術、循環および再利用技術を独自に開発しており、次の原型炉設計への展開もすでに進められている。これら燃料に関する技術と装置を総括して保有するのは日本だけであり、世界に先んじて核融合発電を実現する可能性が高い。
核融合発電の社会的・技術的な位置付け:
1)核融合発電がもたらすアウトカムからの動機付け:近来の歴史においてもオイルショック、リーマンショック、そしてこの新型コロナウィルス禍において、経済成長とCO2排出には強い相関があることを学んできた。そして、電気自動車や水素エネルギーの推進においても、その影響から完全に離れることは難しいと思われる。真にカーボンニュートラル、さらにカーボンマイナスをもたらす1次エネルギーは自然エネルギーと原子力発電、そして核融合発電に限られる。またベースロード電源で貢献できるのは原子力発電と核融合発電のみである。2)日本の地政学的国家戦略からの意義:自然エネルギーの導入が欧州で成功しつつあるが、山間部が多い日本で同規模・同効率で可能であるとすることは地政学見地から合理的ではない。2050年時は原型炉の運用を目指しており、この段階で商用発電に核融合が直接貢献することは困難である。しかし、国家戦略な長期的視野に基づき2050年にカーボンニュートラルを達成する核融合発電の実用技術を有することが重要である。3)SDGsへの寄与:発電は基幹技術であるため、SDGs全17項目に対し核融合発電の実現は8項目に対する寄与が見込まれるなど、人類が持続して生活を維持するには必須技術である。
キーワード
2020年調査にはこの項目はありません。
ID 2020_E575
調査回 2020
注目/兆し 2020
※2020年調査にはこの項目はありません。区別のため、便宜上 「2020」 としています。
所属機関 公的機関
専門分野 エネルギー
専門度 -
2020年調査にはこの項目はありません。
実現時期 10年以降
分析データ 推定科研費審査区分(中区分) 14 (プラズマ学)
分析データ クラスタ 2 (マシンインテリジェンス/センシング・データサイエンス)
研究段階
2020年調査にはこの項目はありません。
インパクト
2020年調査にはこの項目はありません。
必要な要素
核融合発電の炉心となる超高温プラズマの運転条件は、第1世代発電炉については設計が固まっている。この実証実験がITERの役割であり、核融合反応の検証が2035年以降に実施される。第1世代発電炉の工学設計は既存技術もしくは現在進行中の開発研究をベースとしており、ITERにおける核融合運転の実証と時系列を合わせて、科学技術的な根拠を持って合理的な設計を示すことはできる。
核融合反応に基づく課題は、物理現象の理解やシミュレーション技術の進展に伴い、その多くは予測され、ITERでの検証実験との比較を待つ状況にある。例えば、核融合発電が取り扱う高温プラズマは古典物理学で取り扱われる熱平衡状態から外れた非平衡開放系で強い非線形性を有するが、従来の数値モデルの限界を示すとともにシミュレーション手法をすでに改善した。材料開発ではプラズマに面する材料への高熱負荷および核融合反応で発生する中性子に伴う損傷効果、材料の放射化が指摘されているが、要素研究により改善が進められれるとともに、バックキャスティングに基づく材料開発や放射化材料の除染技術に関する課題の集約と具体化は世界的にも日本が最も先んじている。
核融合発電の実現では、技術の開発とともに、社会的な判断が不可欠である。これは、前項目「注目科学技術の概要」において核融合発電の社会的・技術的な位置付けとして3項目を記載した。新型コロナウィルス禍では、ウィズ・コロナという言葉が示すように、日々の新型コロナ対策だけでなく、長期的な視点で社会活動の持続する方法の検討が必要なことが改めて示された。持続可能な社会のためには長期戦略として島国である日本が自国の電力発電は必須であり、かつ北海道胆振東部地震(2018年9月)で生じた大規模停電(ブラックアウト)回避のためにも電力分散(細目:リスクマネジメントに記載あり)に向けた国家戦略も必要である。核融合発電はコスト評価も課題として残るが、それも含めて社会と情報を深く共有し日本の地政学見地を考慮した核融合発電に関する戦略を構築する必要がある。