NISTEP注目科学技術 - 2020_E435

概要
軟X線発光分光法による液体中の特定分子の分子軌道対称性判別。放射光施設によって作られる軟X線ビームのうち、2種類の直線偏光(縦偏光・横偏光)を入射光として用い、分子からの発光スペクトルピークの強度変化を観測する。複数の発光ピークが観測されていても、この偏光依存性測定の結果どちらの偏光照射でそのピーク強度が増強するかを見ることで、そのピークの元となる分子軌道の対称性が判別できる。単純な発光分光測定のみではスペクトル形状が得られても、その構造がどの分子軌道由来なのかを帰属するのが難しい。分子軌道計算結果も完璧に実験結果とエネルギー値が合うものではないため、この分子軌道対称性の情報が加わるとより正確な分子軌道の帰属が行えるようになる。また計算手法の開発のための実測データの提供をすることができるようにもなる。偏光依存性測定自体は昔からあったが、平面上にきれいに特定の向きに分子を並べた系に対しての軟X線吸収分光測定が行われるのが主流であった。これは吸収分光では電子の動きが1step(内殻電子の遷移のみ)であるため全ての分子を配向させていないと偏光依存性が現れないからである。しかし発光分光測定においては電子の動きが2step(内殻電子の遷移と価電子の内殻への遷移)であるため、励起エネルギーをうまく選べば光励起させる分子の配向を選ぶことができ(たまたま特定の方向を向いていた分子のみ励起される)、その分子のみから発光が起こるため、分子の向きがランダムでそろっていない液体中の分子に対しても発光スペクトルピークの対称性判別が可能になるという原理である。現時点では液体の偏光依存性測定を行えるビームラインがほとんどない状態であるが、次世代の東北放射光施設が完成した場合、光強度が上がるため、高分解能で高効率な分析が可能になり、これとオペランド分光や顕微分光を組み合わせることで、より詳細な電子状態解析が可能になり、分子軌道計算と合わせてより具体的な分子構造や分子の周りとの相互作用の様子が明らかにできるようになると考えている。
キーワード
2020年調査にはこの項目はありません。
ID 2020_E435
調査回 2020
注目/兆し 2020
※2020年調査にはこの項目はありません。区別のため、便宜上 「2020」 としています。
所属機関 大学
専門分野 ナノテクノロジー・材料
専門度 -
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実現時期 10年未満
分析データ 推定科研費審査区分(中区分) 32 (物理化学、機能物性化学)
分析データ クラスタ 37 (電磁波・光学・レーザー・光半導体)
研究段階
2020年調査にはこの項目はありません。
インパクト
2020年調査にはこの項目はありません。
必要な要素
縦偏光・横偏光の光を作った際の偏光度をより高くできれば詳細な偏光依存性を観測することができると思われる。また照射強度の規格化が重要であるため、実際の照射光強度の検出方法をしっかり確保しておくことや、参照物質を同時に測定して照射された光強度の見積もりができるように工夫することが重要と考える。また軟X線は空気中でもすぐに減衰してしまうのでオペランド分光として組み上げていく際には、いかに観測したい場所まで軟X線を減衰させることなく持っていくかが重要で、これは試料周りの装置のアイディア勝負となると考えている。