NISTEP注目科学技術 - 2023_E144
概要
AR/VR等は長年にわたり注目されてきた技術で、一部のプロフェッショナル用途、ゲーム用途では実現しているが、日常的にスマホに置き換わる情報表示装置としてはいまだ市民権を得ていない。大きな理由は二つあり、一つは人の視覚特性(輻輳と調節の両方)を満足する3D表示が困難であること。もう一つがウエラブル機器として眼鏡と同様の数十g程度の重さにするのが困難なことがあげられる。前者についてはホログラフィーやライトフィールド技術が有望であり、そのための超高精細超多画素(1ミクロン程度の画素、1億~10億画素)の空間光変調器と3D空間をリアルタイムで計算するコストが必要となる。また後者に関しては、メタレンズや幾何位相レンズを用いたダイナミックな光学素子が必要となる。高精細の空間光変調素子としては8K液晶パネル技術の更なる発展、ダイナミックな光学素子としては液晶メタレンズや液晶幾何位相レンズが、高速計算においては計算アルゴリズムの工夫や、GPUを利用した高速計算の発展が著しい。この技術が実現すれば、眼鏡と変わらないシンプルなウエラブルデバイスとともに様々な情報ディスプレイや仮想空間がリアルタイムで構築可能となり、メタバース社会が身近なものになるだろう。ダイナミックな光学素子は既存の光学システムへの波及効果もある。
キーワード
メタバース / ホログラフィー(ライトフィールド) / 空間光変調素子 / 幾何位相レンズ / メタサーフェース
ID | 2023_E144 |
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調査回 | 2023 |
注目/兆し | 注目 |
所属機関 | 大学 |
専門分野 | 情報通信 |
専門度 | 高 |
実現時期 | 5年以降10年未満 |
分析データ 推定科研費審査区分(中区分) | 61 (人間情報学) |
分析データ クラスタ | 38 (計算機・電気通信・通信デバイス・量子計算機) |
研究段階
空間光変調素子の超高精細化の実現や幾何位相、メタサーフェースの原理・現象は科学的にほぼ明らかになりつつある。課題は社会実装するうえで、テクノロジーに移管できる状態になっていないことである(極度に高い技術レベルが要求される)。現在は大学で基礎的な研究が、企業ではそれをテクノロジーとして実現するための応用研究がおこなわれている段階で、特に米国においてIT大手と大学とで産学連携の状態にあり、関連するベンチャーの設立や、大手ITによるそのM&Aなどホットな領域となっている。
インパクト
普通の眼鏡と同じ感覚で身に着けられるウエラブルデバイスで、人の視覚特性を完全に満たす3D表示(三次元空間の構築)ができるため、工業(設計デザイン)、医療、教育、福祉(肢体不自由者の仮想旅行等)、ゲーム、情報通信等、あらゆる分野への波及効果が期待される。また、光情報処理用のLCOSは、現在半導体が産業の米であるように、次世代の産業の米になる可能性がある。
必要な要素
特に超高精細の空間光変調器の研究開発とその試作実証においては、液晶空間光変調器や超多画素LCOS(Liquid crystal on Silicon:DRAM or SRAM+液晶を一体化したデバイス)が必要であり、その開発費は製造設備費を除いて数十億円を越える。公的な資金のサポートが必要である。また完全な没入感のある空間に手ごろには入れる状態になったときの、ライフスタイルの変化や人間に与える負の影響についても社会科学的に研究検証する必要がある