NISTEP注目科学技術 - 2022_E351

概要
脳機能は複雑かつ精緻な神経回路の活動によって実行される。近年、米国や欧州が脳神経回路の全容を理解するためのコネクトーム解析を進めており、日本も革新脳プロジェクトが動いている。一方、神経発生とその異常による神経発生発達障害の研究も広がっているが、近年の神経科学研究は、神経回路形成などの異常の結果である最終的なシナプス機能の研究に偏っていることから、対処療法的な治療法しか実用化されていないのが現状である。そこで、日本の強みである発生生物学を神経科学と融合させることにより、神経発生発達障害の根本原因である発生異常のメカニズムを徹底的に解析する研究の強力な推進を提案する。社会問題となっている自閉症、統合失調症、双極性障害などは、神経発達障害と位置付けられていることから、神経回路の構築・作動原理の研究推進は、神経発生発達障害の治療への応用が期待される。
キーワード
神経発生 / 神経発達 / 神経発達障害 / 自閉症 / 統合失調症
ID 2022_E351
調査回 2022
注目/兆し 注目
所属機関 団体
専門分野 ライフサイエンス
専門度
実現時期 10年以降
分析データ 推定科研費審査区分(中区分) 52 (内科学一般)
分析データ クラスタ 61 (脳神経科学)
研究段階
米国や欧州が脳神経回路の全容を理解するためのコネクトーム解析を進めている。日本もマーモセットを用いた革新脳プロジェクトが動いている。また、光遺伝学を用いた行動解析なども、海外が先導している状態ではあるが、日本国内でもCRESTなどで光操作を用いた技術開発を戦略的に進めている。日本は、マーモセットなど一定の独自性を打ち出しているものの、神経科学全体の潮流としては、米国や欧州よりやや遅れ気味である。その反面、発生生物学や細胞生物学は日本の強みであり、これらの分野は国際的にも日本が先導しており、ノーベル賞・ラスカー賞・ガードナー国際賞などの受賞者も複数おられるが、近年基礎研究費の削減に伴い、日本では発生生物学や細胞生物学分野への研究費は大きく減っている。その結果、土台のない研究が増えており、対処療法以外のアプローチとして神経発生発達障害に立ち向かう研究が生まれてくる土壌は乏しいのが現状である。
インパクト
2022年調査にはこの項目はありません。
必要な要素
神経回路(コネクトーム)の全容については、国際的なプロジェクトにより近い将来明らかになるであろう。しかし、ゲノムプロジェクトと同様に、膨大なコネクトームのデータを社会実装につなげるには、さらなる努力が必要である。海外では、ブレイン-マシーン-インターフェイス(BMI)などへの応用も進んでおり、脳や脊髄を損傷した患者が多く救われる可能性が期待される。日本でもBMIに大きな研究費がおりていることから、一定の成果が期待される。しかし、社会問題ともなっている自閉症や統合失調症などの神経発生発達障害については、発生生物学的および分子細胞生物学的な基礎的理解が追いついていないことから、社会実装までの先は長いであろう。日本の強みであるこれらの分野を神経回路研究や疾患研究と融合させられるかどうかが、今後の展開を大きく左右すると思われる。よって、現在は学会レベルでもバラバラである神経科学、発生生物学、細胞生物学、生化学、精神疾患(生物学的精神医学など)を融合できるような領域型研究を推進するための研究班を構築することなどが効果的ではないかと考える。