NISTEP注目科学技術 - 2023_E117

概要
乱流は私達の身の回りの水や空気の流れの中に普遍的に見られますが、宇宙空間ではプラズマが乱流状態になります。宇宙のプラズマは、水や空気と異なり、粒子間の衝突が殆ど生じない無衝突乱流になります。無衝突乱流では、位置空間だけでなく速度空間も含めた位相空間を自由度に持つので、通常の乱流より遥かに難しいものとなります。しかし、この無衝突乱流は、プラズマの加熱や輸送に大きく関わっています。例えば、地球をとりまく磁気圏における粒子加速はオーロラを発生させ、また人工衛星に影響を及ぼします。また遠く宇宙のブラックホール周辺にあるプラズマは、乱流によって加熱され電磁波を放射するので、これを観測することでブラックホールの情報を間接的に得ることができます。さらに、地上でも核融合の実現のためには、無衝突プラズマを制御する必要があります。
この無衝突乱流は、近年の観測技術と数値計算性能の向上により、その理解が飛躍的に高まっています。例えば、太陽風では、人工衛星観測から、速度空間の微細なスケールへと電磁場のゆらぎのエネルギーが伝わる様子が明らかになりました。また、実験室プラズマでも、これまで難しかった非接触な分布関数計測によって無衝突乱流の詳細が性質が明らかになってきています。また、数値計算では、位相空間を全て第一原理的にシミュレーションすることが可能になりつつあります。実際に、無衝突乱流のシミュレーションによって明らかになった性質が、VLBIによるブラックホール降着円盤観測の物理的解釈を行う際に用いられています。
キーワード
乱流 / プラズマ物理 / 宇宙物理 / 核融合
ID 2023_E117
調査回 2023
注目/兆し 注目
所属機関 大学
専門分野 宇宙・海洋・科学基盤
専門度
実現時期 10年以降
分析データ 推定科研費審査区分(中区分) 14 (プラズマ学)
分析データ クラスタ 9 (素粒子・原子核・宇宙物理学)
研究段階
現象の一部が、科学的に明らかになった段階です。今後は、惑星磁気圏・高エネルギー天体物理学・核融合科学それぞれの分野横断的な研究の発展が期待されます。
インパクト
オーロラやブラックホールといった多くの市民が関心を持つ自然現象の理解が進みます。また、核融合発電の実現というエネルギー問題の解決へとつながることが期待されます。
必要な要素
観測技術、数値計算性能の向上はもちろんですが、異分野間の協力が必要となると思います。