NISTEP注目科学技術 - 2022_E269
概要
自然史博物館などに収蔵されている生物標本から遺伝子や同位体などの分子情報を得ることで、その生物が生存していた過去の情報に容易にアプローチできる「Museomics」が近年注目されている。
過去に採集された生物標本は新鮮なサンプルと比べ遺伝子などが劣化している。そのためこれまでの従来型のシーケンサーでは、遺伝解析が困難であった。しかし、2010年代からハイスループットシーケンサーの利用が盛んになると、生物標本からの遺伝解析も(依然としてコストや手間はかかるものの)比較的容易に解析できるようになってきた。
本分野はまだまだ国内で研究例が少ないものの、非常に多岐にわたる分野に貢献すると考えられ、そのポテンシャルは極めて大きい。例えば、生物多様性保全である。過去の情報を保持している生物標本から遺伝情報などを取り出すことで、過去の遺伝的多様性や個体数、また遺伝子の働きなどを知ることができる。これらの情報から生物多様性の時間的な変化を知ることができ、減少要因や保全対策の提言、また将来予測などが可能となる。
過去に採集された生物標本は新鮮なサンプルと比べ遺伝子などが劣化している。そのためこれまでの従来型のシーケンサーでは、遺伝解析が困難であった。しかし、2010年代からハイスループットシーケンサーの利用が盛んになると、生物標本からの遺伝解析も(依然としてコストや手間はかかるものの)比較的容易に解析できるようになってきた。
本分野はまだまだ国内で研究例が少ないものの、非常に多岐にわたる分野に貢献すると考えられ、そのポテンシャルは極めて大きい。例えば、生物多様性保全である。過去の情報を保持している生物標本から遺伝情報などを取り出すことで、過去の遺伝的多様性や個体数、また遺伝子の働きなどを知ることができる。これらの情報から生物多様性の時間的な変化を知ることができ、減少要因や保全対策の提言、また将来予測などが可能となる。
キーワード
標本DNA / 生物多様性保全 / ハイスループットシーケンサー
ID | 2022_E269 |
---|---|
調査回 | 2022 |
注目/兆し | 注目 |
所属機関 | 大学 |
専門分野 | 環境 |
専門度 | 高 |
実現時期 | 5年以降10年未満 |
分析データ 推定科研費審査区分(中区分) | 64 (環境保全対策) |
分析データ クラスタ | 51 (生物生態・多様性) |
研究段階
現時点では、博物館標本における分子情報の利用として、近年のハイスループットシーケンサーの発達に伴い、標本からの効率的な遺伝解析解析手法が複数開発されている。また、標本上のDNAを長期間保持する保存手法や、標本を破壊しないDNA抽出手法なども、日本発の技術として近年開発された。新鮮なサンプルと比較してまだ依然として解析費用は高いものの、今後の解析手法の発達により、より安価かつ簡易に生物標本から分子情報が利用できるようになると期待される。
また、こうしたMuseomicsによる研究成果としては、分子系統解析のほか生物多様性保全に主に活用されている。分子系統解析ではニホンカワウソなど絶滅した種の系統樹を解明しているほか、種の保存法で国内希少野生動植物種に指定された絶滅危惧種について、過去の情報が明らかにされるなど、これまでほぼ不可能であったまったく新しいアプローチが可能となっている。
また、こうしたMuseomicsによる研究成果としては、分子系統解析のほか生物多様性保全に主に活用されている。分子系統解析ではニホンカワウソなど絶滅した種の系統樹を解明しているほか、種の保存法で国内希少野生動植物種に指定された絶滅危惧種について、過去の情報が明らかにされるなど、これまでほぼ不可能であったまったく新しいアプローチが可能となっている。
インパクト
2022年調査にはこの項目はありません。
必要な要素
生物標本からの解析手法について、現状の解析手法にとどまらず、より過去の生物標本からの安価かつ簡易にできる解析手法を開発していく必要がある。
また、本研究分野は保全生態学や基礎科学(分類学、分子系統学、集団遺伝学など)での利用が多い一方で、応用科学(育種学、疫学、植物保護学など)的な利用はほとんどないのが現状である。今後、様々な分野の研究者と協働していくことにより、本研究分野が持つポテンシャルを引き出す必要がある。具体的には、絶滅した栽培品種やその近縁種の標本からの、有効成分やそれに関連する遺伝情報の抽出(育種学的利用)、動物標本からの過去の感染症の有無の検証(疫学的利用)、雑草や害虫の薬剤抵抗性獲得時期の解明(植物保護学的利用)などが例として挙げられる。
最後に、生物標本を収蔵する博物館の問題である。多くの博物館は近年、新たな生物標本を受け入れられないほど収蔵庫の容量がいっぱいとなっている。しかし、財政的な問題により、新規の収蔵庫の増設が難しい。今後こうした生物標本への新たな価値の付与により標本の重要性が認知されることで、より多くの生物標本が研究材料として収蔵される必要がある。
また、本研究分野は保全生態学や基礎科学(分類学、分子系統学、集団遺伝学など)での利用が多い一方で、応用科学(育種学、疫学、植物保護学など)的な利用はほとんどないのが現状である。今後、様々な分野の研究者と協働していくことにより、本研究分野が持つポテンシャルを引き出す必要がある。具体的には、絶滅した栽培品種やその近縁種の標本からの、有効成分やそれに関連する遺伝情報の抽出(育種学的利用)、動物標本からの過去の感染症の有無の検証(疫学的利用)、雑草や害虫の薬剤抵抗性獲得時期の解明(植物保護学的利用)などが例として挙げられる。
最後に、生物標本を収蔵する博物館の問題である。多くの博物館は近年、新たな生物標本を受け入れられないほど収蔵庫の容量がいっぱいとなっている。しかし、財政的な問題により、新規の収蔵庫の増設が難しい。今後こうした生物標本への新たな価値の付与により標本の重要性が認知されることで、より多くの生物標本が研究材料として収蔵される必要がある。