NISTEP注目科学技術 - 2023_E109
概要
老化細胞の蓄積量を適度に制御することにより、加齢性疾患の進行度を抑え、健康寿命や平均寿命を延ばすことが可能になっていくと思われる。老化細胞が過剰に蓄積すると組織機能が著しく害されるが、一方で、細胞老化はがん抑制機能としてなくてはならいものであるし、創傷治癒や組織再生などでも必要であることが報告されている。故に、細胞老化の発生と蓄積を制御して、適正状態を保つことが求められるようになっていくと思われる。
キーワード
細胞老化 / 老化細胞 / 老化 / 健康寿命 / 加齢性疾患
ID | 2023_E109 |
---|---|
調査回 | 2023 |
注目/兆し | 注目 |
所属機関 | 大学 |
専門分野 | ライフサイエンス |
専門度 | 高 |
実現時期 | 5年以降10年未満 |
分析データ 推定科研費審査区分(中区分) | 59 (スポーツ科学、体育、健康科学) |
分析データ クラスタ | 35 (生活習慣病/老化・運動・食習慣) |
研究段階
細胞老化についての研究報告は、かなり詳細に揃ってきていると感じる。故に、おおよそ原理・現象が科学的に明らかになった段階だと思われる。現在は、世界各国の研究チームが、細胞老化を個体の中で制御するための方策を考案している段階である。その中には、老化細胞を生体内から除去する試薬 (セノリティック試薬) 等も含まれるが、副作用のない、かつ適度に全身から除去するような都合の良いものは未だなく、課題も残されている。それでも、10年をめどに細胞老化を制御する試薬や健康食品などが身近なものになっていくと予想している。
インパクト
高齢化社会を迎える日本では、健康寿命の延長が急務とされている。このような研究開発が進み臨床応用されていけば、がん抑制と共に加齢性疾患の増悪化も抑えることができるようになり、健康寿命や平均寿命が延長されることが期待できる。これにより、高齢者も労働力を提供できるようになり、年金等の日本経済の問題も解消方向に向かうと思われる。また、健康でいられる期間が長くなることで、国民がより幸せに暮らせるようになるであろう。
必要な要素
最近の主な研究報告では、老化細胞は悪者として扱われる方がより目立ち、注目を集めている印象である。しかし、同時に、癌抑制機構として主要な機構であるのは疑いようもないし、創傷治癒などに必要であること等も鑑みて、良い側面と悪い側面の両面を正しく認識した上で、ただしく向き合う必要がある。故に、最も必要な要素は、固定観念を捨て、生理的意義を広く捉えようとする意識を忘れないことだと考える。これは、どの研究分野でも言えることかもしれない。まずは研究者が、目先の利益を追求するのではなく、真実を見抜く目を維持することが必須であろう。